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ジッパーズ  作者: SNEO
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05 裏切りはご法度!

「お前、怪我は大丈夫なのかよ」

 マコトが肉を口に入れながら、言う。

「ああ、まだちょっと痛むが直に治るだろう」

 と小西は答えた。灰次は、腕を組んだまま黙っている。

「しかし、驚いたよ、昨日投げ飛ばされたヤツが、翌日には会社出た瞬間に飯誘うんだもんな。しかし、よく俺らが同期だって分かったな」

 とマコトは焼肉に上機嫌だった。

「ああ、小田は有名だったからな。俺はその辺の情報に詳しいんだ」

 と小西は肉をひっくり返した。

「俺は仮屋灰次だ。よろしく」

 とぶっきらぼうに自己紹介をした。ああ、俺は「小西秋彦だ」とそれに応じる。

「ところで会社に、『藤咲』って人がいるか?」

 と、小西は小さな声で聞いた。灰次は少し目を開いた。

「ああ、そいつも俺らの同期だ。それで全員だよ。なんだ、お前そいつも知ってんのか」

 とマコトは驚いた様子で言った。

「いや、そうか、俺らの同期だったのか。そんな気はしてたが」

 と小西は箸を止めた。焦げた肉を脇に寄せて、

「フジヨシが何かしたのか?」

 と灰次は聞いた。小西は、少し間を開けて、

「ああ、昨日の晩、公園で、狛稜の武藤と話してるのを見かけたんだ」

「何!? 狛稜だと」

 マコトは机に乗り出した。

「狛稜って何だ?」

 灰次の質問に、マコトはあきれながら、

「狛稜ってのはジッパーズと敵対する会社だよ。下には、ネジを作る会社が付いてたはずだが。かなり危ねーヤローが集まってるって噂でな。ウチよりも格下なんだが、あまり関わらない方がいいって評判の会社だ」

 と解説した。小西は、それに続けるように、

「そこの武藤ってヤローが、こいつも1年なんだが、藤咲から情報をもらってるようなんだ」

 と言った。灰次はグラスの水を飲むと、

「それで、フジヨシは何でそいつらに情報をやってんだ?」

 小西は、少し黙って首をかしげた。

「さあな、金か、それとも弱みを握られてるか。武藤とは同じ高校だったみたいだしな」

 灰次は、腕を組んで黙りこんだ。

「何考えてるかよく分かんねーヤツだけど、そんな悪いことしそうには見えなかったぜ」

 とマコトがまた肉を食べる。灰次は、

「その話、ここだけで止めてくれないか」

 と言った。小西は慌てて、

「そんなわけにはいかないだろう。これは会社にとって重大なことだぜ。俺らで軽率には決められねーよ」

 と手を振った。灰次は、

「じゃあ会社で言えばいいだろ。そうじゃなくて同期である俺らにまず相談したってことはお前自身、グレーなもんだから、判断に困ってるってわけだろ。じゃあ、俺の判断は黙ってろ、だ」

 と睨んだ。マコトは、腫れた頬をさすりながら、

「そうだな、まあ、おっかねー人の集まりだから、大丈夫だろ」

 とゲップをした。

「安心しろ。いよいよやばくなったら、俺らで何とかすりゃいいんだろ」

 と灰次は笑いかけた。小西は渋々納得すると、「俺は一旦、家に帰るぜ、くれぐれも俺がもう出勤出来るなんて言うんじゃないぞ」と言って帰った。


 会社に戻ると、橋上が、「ちょっといい?」と肩を叩き、灰次・マコト・フジヨシの3人を会議室に呼んだ。

「午後は、会社について少し講義をする予定になっとるんよ」

 と、椅子に座り言った。3人も椅子に座る。

「ところで、高堀の顔、腫れとったけど、自分らがやったん?」

 と橋上が聞く。3人は黙っている。会議室の扉が開き、長身の男が入ってきた。

「橋上さん、不用意に部屋に入らんでください」

 と男は橋上の隣に座った。

「ああ、すまんすまん。心配せんでもこいつらは襲ってこんやろ。それに襲ってきても大丈夫やから」

「先輩、言い訳はなしです」

 と男は言った。

「テメーら橋上さんから講義してもらえるなんて有難く思えや」

 と男は煙草を吸い始める。

「この年中不機嫌な男は、向田一郎。今年で3年目になるんやったね」

「4年目す」

 と向田が返す。

「まあええわ。じゃあ、ついでやし、社内の勢力を教えとこか。まず、昨日、君らの同期を投げ飛ばしたんが、僕らのボスである白羽さん。白い悪魔って言われてるわ。この人がこの会社を作り、今でも他社への牽制力を持ってる。で、白羽さんが最も信頼してる二人が、巨神兵こと、討田さんと田上さんや。討田さんはよう笑う人で、昨日も投げ飛ばされた君らの同期見て笑っとったな。で、僕が5年目の橋上や。ハッシーって皆呼んどる」

「誰も呼んでませんよ」

 向田の冷たいツッコミが入る。

「……でね、その下が、この向田と、昨日の金髪、寛次屋君やな。この二人は喧嘩っぱやくて困る」

「俺は喧嘩はほとんどしねえっすよ。寛次屋と一緒にせんでください」

「はいはい。で、その下の3年目が、玉井君。3年目とは思えへん渋さを持っとる。で、2年目は昨日君らがもめた3人だ」

 向田は煙草を灰皿に押し付け、

「おい、小田。お前、あいつらに殴られたのか?」

 と絆創膏だらけのマコトの顔を見る。マコトは、

「いえ、別に」

 と下を向いた。

「別に、誰が誰に付こうと別にどうでもええんやけど、今、勢力が分裂したら、俺らの会社は他んとこに食われてしまう。学生の喧嘩やったらええんやけど、俺らの場合は工場の上がりを奪われて食いぶちが無くなってしまう。簡単に言うと、倒産やな」

 橋上はにこにこと笑った。

「何だか楽しそうですね」

 と灰次が言うと、

「まあ、自分らの返答次第じゃ、今から後輩を倒さなアカン。俺は下のモンが大好きやから、下のモンに手は出したくないんやが、仕方ない。だから、せめて恐怖感は与えんとこうと思って、リラックスした表情を演出してんねん」

「いや、逆に恐いっすよ」

「……で、自分ら、あいつらの下に付くんか?」

 灰次は、

「誰の下に付く気もないっすよ。勿論、アンタの下にも」

 と答える。橋上は嬉しそうに笑うと、「いい返答や」と言って立ち上がり、

「向田、行こか」

 と部屋を出た。向田は焦って、

「アイツらシメんでよかったんですか」

 と聞くと、「シメる必要ないやろ」と言った。向田は、その後を追い、途中で振り返って、

「お前ら、俺らに逆ろうたら、今日みたいにはいかんからな」

 と凄んだ。二人が部屋を出ると、3人は、一斉に力を抜いて、大きなため息をついた。

「なんか毎日、ライオンと同じ檻にいるみたいだぜ」

 とマコトが言った。灰次も頷きながら、明日からが思いやられるぜ、と思った。

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