04 いつまでも尖っていろ!
高堀のパンチを避けたマコトは、カウンターのアッパーを顎に入れた。高堀は、その一発では倒れなかった。それどころか、マコトの腹に蹴りを入れて、マコトが怯んだ瞬間に、フックをかまし、マコトは吹っ飛ばされた。
「おうコラっ! 威勢だけのクソヤローだったとはな!」
高堀が口から血を流し、吠える。マコトはゆっくりと立ち上がり、
「二高のチワワって聞いてたから、ナメてかかってだが、なかなかやるじゃねーか、先輩」
とタックルをし、馬乗りになって高堀を殴る。高堀の顔は殴られて、腫れてきた。
「おらあっ!」
と大声をあげ、高堀はマコトを投げ飛ばした。マコトはすぐ立ち上がり、高堀めがけて、とび蹴りをし、それは見事に命中した。高堀は、ビールケースの山に突っ込み、そのまま気絶した。
「さあ、次は誰だよっ」
マコトは叫んだ。佐野が首を鳴らし、前に出ようとすると、岩倉がそれを止める。
「あいつは俺がやるよ」
と眼鏡を取った。
「俺らも入った時はそんな感じだったよ。だが、玉井さんにタイマンで全員負けちまった時、この人にたてつくのはやばい、って思ったもんだよ。そんな気持ちを味あわせてやりてえな、お前らにも」
マコトは話が終わる前に、右ストレートを入れていた。岩倉はそれをかわし、腹に2発パンチをした。マコトの顔がわずかに歪む。それでも、反撃の蹴りを岩倉の頭に向かって放つが、これも避けられる。そして、小さなモーションからアッパーを入れられた。マコトがよろめくと、容赦なく顔面に膝蹴りを数発入れた。マコトの鼻から血が吹き出る。最後に後頭部に蹴り入れられてマコトは倒れた。その後ろで、灰次は肩のストレッチを始めていた。
「お前の名前、聞いたことねーぞ。そこそこやりそうに見えるが、どんなもんなんだろうな」
と岩倉は笑う。灰次もストレッチをしながら、笑った。
周囲の野次馬の一人が、「ここです、ここ」と灰次らを指差した。後ろの方に走ってくる警官の姿が見える。
「ポリか……捕まるのはやべー。ずらかろう」
佐野が高堀を起こし、後ろに背負った。フジヨシはマコトを起こして、逃げるように言った。岩倉は、
「いるもんだな、運の強い男ってのが」
と灰次を睨む。灰次も目線を逸らさず、
「それはアンタの方じゃないすか」
とスーツを直して走り出した。警察は、逃げ出した6人を見て、岩倉達の方を追いかけた。逃げ切った灰次らは、それぞれ帰路についた。
「今日は散々だったぜ」
小西は腕に巻かれた包帯に目をやる。腕の骨折はヒビが入った程度だったし、明日には出勤出来ると言いわれたが、行く気にはなれない。病院では治療や検査で夜になってしまった。電車を降り、家まで向かう途中の公園で、見たことのある男がいた。
「あれは、今日会社にいた……」
小西は、木陰に隠れて、その男の様子を観察した。男はサングラスをして、煙草を咥えていた。すぐにドレッドにサングラスの男と合流すると、ベンチに座った。
「あれは……北条高校だった武藤……!確かジッパーズと敵対してる狛稜興業に入社したはず」
小西は、情報通だった。
武藤は煙草に火をつけると、
「で、どうなんだよ、ジッパーズは?」
と男に言う。男は煙草の火を消して、
「ああ、完全に勢力が二分してる。と言っても、白羽の方が押してるから、今の所、その派閥争いは表面に出ちゃいないがな」
と立ち上がった。
「しかし、そんな情報俺らに回しちゃっていいのかよ」
と武藤が愉快そうに笑う。男はポケットに手を入れると、
「気に入らねーもんは潰すしかねーからなー」
と呟く。
「お前が、高校の同級生じゃなかったら、疑ってる所だが、その情報、信用するぜ、藤咲」
とドレッドも立ち上がった。
「名前は呼ぶな。誰に聞かれてるか分からないからな」
フジヨシはそう言って公園を出ようとした。
小西は、その顔をしっかり見ようと、一歩足を進めた。その瞬間、足元に落ちていた小枝が折れて、パキッと音をならした。フジヨシは振り返って、木陰に向かって「誰だ」と静かに言った。武藤は「猫か犬だろ」と笑った。
「武藤、昔から何度も言ってることだが、物事を軽く見すぎるなよ」
そう言ってフジヨシは木陰に近づく。小西は体を丸めた。その瞬間、近くから三毛猫が飛び出し、フジヨシの足に擦り寄った。武藤が、「ほら、な」と両手を挙げる。
「昔から、猫がよく寄って来る」
フジヨシは、猫を撫でると、持っていたウエハースを割って猫に与えた。フジヨシとドレッドが公園を出た後、小西は胸を撫で下ろして思った。
よくは知らないが、フジヨシってヤローはジッパーズを裏切ってやがる……!