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ジッパーズ  作者: SNEO
3/8

03 無礼講でも調子にのるな!

 夜。ネオン煌く飲み屋街の一角。頭のテッペンから顎まで大きな傷の入った坊主のマスターがいる居酒屋で「ジッパーズ」の新入社員歓迎会は行われた。参加したのは、2年目社員である、岩倉・佐野・高堀の3人だ。

 岩倉がビールジョッキを持って、

「今日はここにいる3人と、いない1人あわせた新入社員4人の歓迎会だ。無礼講で行こう」

 と乾杯を促す。威勢良くグラスを当て、ビールがこぼれる。灰次はマコトに、

「今日の話の続き、教えてくれよ」

 と囁いた。岩倉がそれを聞き、

「何だ、何の話だよ」

 と灰次の肩に手を置く。

「いや、何もしなくても給料貰える会社だって聞いたんで、何でなのかな、って」

 と恐る恐る灰次は答える。岩倉は、

「何だ、そんな話か。それなら俺が教えてやるよ」

 そう言って、グラスのビールを一気飲みする。

「ウチの会社の下には、『ジッパー』を大量に作ってる工場がついてるんだよ。その工場で働いてる奴は皆不法滞在者なんだが、そいつらを擁護してんのが俺らなんだよ。書類上は俺らがその工場で働いてることになってるんだが、何せ10人程度で大量のジッパーを作ってるんだ。不審極まりないところなんだが、政府も俺らみたいのに関わりたくないもんだから見て見ぬフリしてんだよ。でもって、不法滞在者の給料なんて少ししか渡してないから、俺らは何もしなくても自動的に売上げの80%くらいは入ってくるんだよ」

 灰次は、ビールを少し飲むと、

「そんなに上手い商売があるんなら、皆集まってくるじゃないですか」

 と言うと、岩倉はさらに新しいビールを空にして、

「だから、俺らは常に他社から狙われてんだ。同じように俺らも他社を狙ってる。俺らの下にある工場みたいなのがあと5つあるんだが、今はそれらの上にある会社が均衡を保ってるんだ。だがよ、どこもさらに売上げ伸ばそうとして、虎視眈々と他社のヤマを狙ってるってワケさ」

 と言い、グラスをテーブルに置いた。隣にいたセンター分けの高堀が、マコトに向かって、

「お前が、三高の小田か。相当つえーらしいじゃねーか。噂は聞いてんぜ」

 と挑発的な目つきをする。マコトは小さく笑って、

「あんた、二高出身の高堀さんでしょ。俺もあんたの噂なら聞いたことありますよ。誰にでも噛み付く危ねーヤツだって。でも同時に大したことねーって噂もよく聞きましたがね」

 と腕を組んだ。高堀は立ち上がって、マコトの胸倉を掴み、「てめえ!」と殴りかかろうとした。その腕をつかんで、佐野が「やめとけ」と高堀を睨む。太い眉毛に、モヒカン。ダボダボの軍パンを履いている。

「今日お前らを呼んだのは他でもねー、一つ聞きたいことがあったからだ」

 と佐野は1年3人を見た。

「お前ら今日白羽に同期投げられてたろ。俺らの同期も半端なヤローだったが、一人あいつに辞めさせられた。無茶苦茶なヤローだよ。アイツにゃついていけねー。お前らはどうだ?」

 マコトは少し悩んで、

「まだどんな人か分かんないっすけど、無茶苦茶だってことは確かですね。それにおっかねー。そういう意味では下に付こうとは思わないっすね」

 と答えた。フジヨシは何も言わずに黙っている。

「そんでよ、俺らは3年目にいる玉井さんて人を次期社長にしたいって思ってんだ。玉井さんは滅茶苦茶強いし、偉大な人だ。俺らのことも可愛がってくれるしな」

 灰次は、何だそういうことか、と思い、

「で、俺らにも玉井さんの下に付けって言いたいわけですね」

 と言った。佐野は、

「そういうことだ。お前なかなか物分りがいいじゃねーか」

 と灰次の肩をバンバンと叩いた。そして灰次ははっきりと、

「誰かの下に付くつもりなんかないですよ、下らねー」

 と言い放った。マコト、フジヨシは目を丸くして、灰次を見た。佐野は、他の1年に目をやり、

「お前らは、どうすんだ?」

 と凄んだ。マコトは大きく息を吐き、

「灰次に先こされちゃいましたが、俺も誰かの下に付いて呑気にヘラヘラできるほど、年食っちゃねーすよ」

 と言い切った。フジヨシも小さく頷く。高堀が再び立ち上がり、殴りかかろうとする。岩倉がそれを制し、

「交渉決裂……ってことでいいんだよな」

 と言い立ち上がって、「面へ出ろ」と言った。

 マコトは座ったまま、

「面へ出る、ってことは、本気でやっちまっていいってことですよね」

 と低い声を出した。佐野は、座っているマコトを見下ろして、

「早く出ろ、ボケどもが」

 とテーブルを蹴り上げた。枝豆やらビールが灰次達の方に飛んでくる。3人は服や顔についた、肉やらビールを拭うと、店を出た。2年目の先輩が3人ポケットに手をつっこんでいる。灰次ら3人はそれを睨む。マコトは、

「さあ、誰が俺の相手するんだ」

 と煙草に火をつけ、煙を吐き出す。高堀が、上着を脱ぎ捨て、前に出る。

「こいつには腹立ってんだ。俺がやる」

 そう言って首をならす。マコトが煙草を履き捨てると同時に高堀が殴りかかる。

 細い三日月が空に浮かぶ中、血が騒ぐこの感覚は止められないな、と灰次は笑った。

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