01 就職活動は慎重に!
「灰次、忘れ物はないかい?」
「ああ、大丈夫だよ、母さん」
灰次は靴紐を結んで、答えた。
「喧嘩ばっかりやってたあんたが就職出来るなんてねー。ちゃんと感謝するんだよ」
「わかってるよ」
電車に乗って1時間ほどの場所にあるぼろぼろのビル。そこに灰次の就職先である「ジッパーズ」はあった。ビルに入ると、黴臭い匂いが充満している。このビルの3階にオフィスがある。
「よく考えたら、何やってる会社か知らないな」
灰次はつぶやいてエレベーターのボタンを押す。エレベーターの扉が開くと、中にはボコボコに殴られて気絶した男が二人重なっている。
「お取り込み中……?」
灰次は階段で3階に上がった。
「今日からお世話になる仮屋灰次です。よろしくお願いします」
扉を開けて、頭を下げる。フロアにいたスーツの男達の視線が一斉に灰次に注がれる。金髪の男が近づいてきて、
「おお、何だテメエは」
と低い声を出す。
「やめとけ、未来。そいつは今日から入る新人くんだ」
奥に座っている男はこちらに背を向けたまま、ゆっくりと言った。それでも未来は、灰次の顔をじろじろと眺め、最後に、
「俺は寛次屋未来ってんだ。今度しょうもないこと言ったら、ぶっ殺すぞ」
とすごんだ。灰次は、心の中で「挨拶しただけだろうが」とつっこんでおいた。フロアを見渡すと、どうも皆普通のサラリーマンには見えない。と、後ろの扉が開き、スーツ姿の男が一人と、ポロシャツの男が入ってきた。
「今日から世話になります、小田誠です」
ポロシャツが大きな声で言う。続いてスーツが、小さな声で、
「藤吉咲。よろしくお願いします」
と言った。未来がまたつっかかってきて、全く同じやり取りが繰り広げられる。
何なんだ、この会社。俺はとんでもないとこに来ちまったのかもしれない……と灰次は激しく後悔した。