6話
この仕事が終わって、ぼくがパイプ椅子に座る頃には、すこし暑くなってきている。が、目をさまして外に出たばっかりの時間、だいたい六時半から七時の間は、砂浜はまだそんなに熱くはなっていない。人影も、まばらだ。
外にいるのは朝釣りにきた人や、子ども連れの母親、早朝の散歩にやって来たおじいちゃんとおばあちゃんの夫婦などだ。そんなに人はいない。
それから十時頃には、すでに浜の表面は熱くなっている。
ぼくは皆より早く行動したがったので、そのことで先輩たちや幸平たちからよく小言を言われた。一人で仕事を始めるより、みんな揃ってから仕事を始めたほうが良い。
ただ理屈がまるで通用しないやつだったので、皆はいつの間にか、ぼくの好きにさせるようになっていた。
今は反省している。
こうしたことの積み重ねが、後に失敗を招いたのだ。
風が強く、テントのポールに立てかけてあった看板の一枚が風で飛んでいった。
一昨日、同じように飛んでいった看板で、逗子海岸でたいへんな事故が起きたばかりだ。
飛んでいった看板は五、六メートルほどして下向きに地面に張り付いて、ぴたっ、と、止まった。
やっぱり、テープか何かで止めておかなくてはならなかったのだ。僕は海の家までビニールテープを取りに向かった。
てっきり粘着性のあるやつを貰えるのかと思ったら、与えられたのは、クーラーの送風口に張り付けるような、あのペラペラのやつだぅた。仕方なく、そのテープで、テントのポールと看板をぐるぐる巻きにして、少々見栄えは悪いが、何とか固定した。
ただ、これではいかにも横着で、《先生》が怒りそうだ。
まだ浜辺は空いていた。それからテントの日陰からそっと出る。今のうちに。おもむろに。浜辺に刺してあった海の家のシャベルを、ぼくは取り上げた。