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習作時代  作者: 中川 篤
青春の終わり
30/45

29話


 それからまたしても雨がふり、その日は海の家も、プールでの作業もなかった。合宿所の内側から、しとしとと雨が表の戸を叩くのを聴くのはいかにも風流、雨が辺りの音を消してしまうので雨音(あまおと)をのぞけば、はじつに静かだ。

 こういっちゃっては何だが《先生》は、ハッキリ言って、台風以上に騒々しい。《先生》がいない久しぶりの時間、ぼくたちはまったり、中で漫画を読みながら過ごした。嫌がる西に無理を言って読ませてもらった《ナルト》の初期の方をぼくは読んでいた。

 懐かしい。

 ジャンプ連載の方では二部が始まったばかり。雨は次第に激しくなり、その内、雷が聴こえだした。



 嵐と共に、しばらくすると《先生》がトラックでやって来た。

 ぼく達に見せたいものがある、先生はそう言って太平と幸平をトラックで拉致ると、ぼくらを残してどこかへ行ってしまった。

――「あいつら、どこに向かったんだろ?」

 ぼくは言ったが、誰も知るものがなかった。一人くらい見当のついている人間がいたかもしれないが、だれも答えようともしない。しばらくすると、威勢が、皆に戻ってきた。

 里中センパイがすぐ思い出したように言った。「先生の家だべ?一度連れていかれたことがあるよ。トロフィー置き場を見たっけな」

――「そんなのが、あるんすね」

 《先生》の居ない合宿所はやはり平和な空間だった。暇つぶしにぼくはラルゴを漕ぎ始めた。



――「ねえ、《先生》って、オリンピックにホントに出たの?」尾瀬が言った。

――「らしい」里中が返す。

――「勝ったんですか?」

――「だべ?」

 それから一時間ほど帰りを待ったが、幸平たちは中々戻ってこなかった。部屋のものはついさっき整理したので、もういつ戻ってきてもいい状態だ。隙を見て、錦が近くのコンビニまで出かけるとそれから言い出した。北島と《コナン》も一緒に行くと言った。

 台所では尾瀬と里中センパイが夕食の準備をしている。ホテルからのもらい物はないから、野菜を切って今日の夕食に豚汁を作っていた。塩味のやたら効いた、血圧がだいぶ気になりそうな味付けだった。

 それから、ガン、ガン、と二度、誰かが合宿所の戸を叩く音がしたが、その叩き方が微妙に《先生》とは違うので、一瞬、皆が誰だろう? という感じの顔をした

――「お前ら、いいか」入ってきたのは《先生》ではなく、OBの杉田さんだった。「入るぞ」

――「うおっ、《先生》かと思ったあ……」里中センパイが言った。寿命が半分縮んだような声。「杉田さんか」

――「いや、違うちがう、オレオレ。オレだってばよ」杉田さんは笑いながら朗らかに言った。「どうして間違えるんだよ。それよかここに《先生》はいないの?」

――「ついさっき、どっか行きましたよ」

――「皆、どうしてそんな先生を怖がるんだよ。ま、オレも怖いけどさ」

――「そりゃだってさ……、日野なんか警棒でやられまくってるもんな、な?」

――「むちゃ痛いっす」ラルゴを軽く漕ぎながら、僕は答えた。「毎日ですよ」

――「警棒ってあの折られた折られた言ってるやつか。あれも年代もんだからなあ……。でもオレらのときよりマシだろ。釣り竿とか石でやられた訳じゃないんだから……」

 それから、嵐が少し収まり、小康状態になった頃、《先生》たちは資材を持って帰ってきた。



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