24話
一方。
小さな車が何代も並べてある作業場の一角、小型自動車組の所では、北原や宮の班が自動車を分解する作業にいそしんでいた。
昨年の生徒が作った小型自動車を分解するところから、ここの工程は始まることになっている。この自動車班の所ではしょっちゅうスパナやレンチ、あるいはモンキースパナが盗まれる。犯人は、分からない。(ということになっている。学校側は何とかして取っ捕まえてやろうと必死だ。S校はなかなかいい工具を使っているのだ。)この作業では手はもちろんのこと、着ている作業服の至るところまでが、くまなく油で汚れる。
その汚れを落とすには、作業上の外の流しにある、2ℓのペットボトルに詰められた工業用石鹸を使う、この石鹸もどういう訳か盗まれる。
この作業はチームワークだ。
北原がエンジンを立てている間、もう一人の班員が一本一本ボルトを、スパナを使って締めていく。ちなみに、そのボルトを締めるのにも順番がある。星を描くように、対向線上のナットを順番に締めていくのだ。(守るやつは稀だが。)
それから中のシャフトやギヤがまる見えになったところで、いったん作業の手を止めた。
機械科の教師の峰が、小さな黒板に中々上手なエンジンの図を描き、四人にざっとエンジン内部の仕組みを説明した。けど専門用語のやたら多いその説明では、いったい何を言われているのか、さっぱりだ。
それでも何とか理解しようと、皆、立ったまま黒板の前に集まって、峰の話を聞きかじった。
――「分かってないだろう?」
――「さっぱり」
――「おいコラ」
北原が正直に答えた。
――「無理っす」
――「このやろう」
峰は黒板に図を二、三足すと、さらに説明を加えた。それからシリンダーに手を突っ込むと、油で汚れるのも厭わず、素手でピストンを動かして見せた。(これは分かりやすかった。けどさ手がベトベトだよ先生。)
――「お前らー、分かったかー?」
――「こんなんで、車が動くんすね」
――「車の方もそう大きくないからなー。OK?」
――「いやっつ! 無理っすねえ〜!」
盛大にズッコケて、
――「何でだよ。書いてあんだからわかるだろー?」
――「字が、汚え!」
呆れ顔で、峰もそれに返す。
――「それ言ったら、なあ、お前らも十分汚れてるだろうが」
北原が手を打って喜ぶ。
――「上手いねえせんせぇ」
――「あのなぁー落語やってるんじゃないんだぞ?」
宮がすかさず、「赤ちゃんプレイは?」
――「おい、その話はなしだぞ宮ー」
それで話は終わった。席に着くと、あとは黒板に書かれてある図を写し取るので、四人は忙しかった。ノートに触れると、オイルで紙が黒くにじんだ。