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習作時代  作者: 中川 篤
青春の終わり
25/45

24話


 一方。


 小さな車が何代も並べてある作業場の一角、小型自動車組の所では、北原や宮の班が自動車を分解する作業にいそしんでいた。


 昨年の生徒が作った小型自動車を分解するところから、ここの工程は始まることになっている。この自動車班の所ではしょっちゅうスパナやレンチ、あるいはモンキースパナが盗まれる。犯人は、分からない。(ということになっている。学校側は何とかして取っ捕まえてやろうと必死だ。S校はなかなかいい工具を使っているのだ。)この作業では手はもちろんのこと、着ている作業服の至るところまでが、くまなく油で汚れる。


 その汚れを落とすには、作業上の外の流しにある、2ℓのペットボトルに詰められた工業用石鹸を使う、この石鹸もどういう訳か盗まれる。



 この作業はチームワークだ。

 北原がエンジンを立てている間、もう一人の班員が一本一本ボルトを、スパナを使って締めていく。ちなみに、そのボルトを締めるのにも順番がある。星を描くように、対向線上のナットを順番に締めていくのだ。(守るやつは稀だが。)

 それから中のシャフトやギヤがまる見えになったところで、いったん作業の手を止めた。

 機械科の教師の峰が、小さな黒板に中々上手なエンジンの図を描き、四人にざっとエンジン内部の仕組みを説明した。けど専門用語のやたら多いその説明では、いったい何を言われているのか、さっぱりだ。

 それでも何とか理解しようと、皆、立ったまま黒板の前に集まって、峰の話を聞きかじった。


――「分かってないだろう?」

――「さっぱり」

――「おいコラ」

 北原が正直に答えた。

――「無理っす」

――「このやろう」

 峰は黒板に図を二、三足すと、さらに説明を加えた。それからシリンダーに手を突っ込むと、油で汚れるのも(いと)わず、素手でピストンを動かして見せた。(これは分かりやすかった。けどさ手がベトベトだよ先生。)

――「お前らー、分かったかー?」

――「こんなんで、車が動くんすね」

――「車の方もそう大きくないからなー。OK?」

――「いやっつ! 無理っすねえ〜!」

 盛大にズッコケて、

――「何でだよ。書いてあんだからわかるだろー?」

――「字が、汚え!」

 呆れ顔で、峰もそれに返す。

――「それ言ったら、なあ、お前らも十分汚れてるだろうが」

 北原が手を打って喜ぶ。

――「上手いねえせんせぇ」

――「あのなぁー落語やってるんじゃないんだぞ?」

 宮がすかさず、「赤ちゃんプレイは?」

――「おい、その話はなしだぞ宮ー」

 それで話は終わった。席に着くと、あとは黒板に書かれてある図を写し取るので、四人は忙しかった。ノートに触れると、オイルで紙が黒くにじんだ。






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