20話
ぼくと両親はそれから「子ども医療センター」を出ると、まず、餃子の「はやすま」に向かった。入院している間、何回も食べに行った味だけど、最後にもう一度、そこの餃子を食べてから地元に帰りたかったのだ。
それから向こうにつくと、ぼくたちは店のおかみさんから店の名刺をもらった、お陰でこのお店のことを忘れずにここに書けるというわけだ。
名刺には郵送も出来ますと書いてあったが、そのサービスを使ったたことはかった。名刺は、町のどこかの小さな名刺屋からおやじさんが作ってきたものらしい。そのおやじは奥で、辛口と普通の餃子を、だまって作り続けている。
五皿はなかで食べて、残ったものは家にいる里美に、パックに詰めてお土産に持ち帰ろうとした。けれど、途中の車内でそれも食べてしまった。
ここの餃子はとにかく熱く、だから冷める前に食べてしまいたいと思ったのだろう。
☆
「はやすま」のおやじとおかみさんに別れを告げると、車にまた乗りこみ、高速道路に入った。
移動がそこから早くなり、富士山の前で雪が降りだした。そのため、外は静かだ。
そのPAに入ると、外の雪は強さを増してきた。吹雪いてきて、雪のかけらがフロントガラスに打ち付けるようになった。
ぼくたちは急いで建物に逃げこむと、まずはトイレを済まし、それから手を洗って、フードコートで月見うどんを頼んだ。
どうやら人生初の月見うどんで、丼の中の卵はかがやいて見えた。
食事が終わると、ゲームコーナーで少し遊んで、そしてPAを出た。車にチェーンを付け、普段めったにないことなので父は手間取っているように見えた。
ぼくと母は車の中で静かにそれを見守り、雪の花びらが父の顔を打ち付けては凍り付かせていった。
ガラス越しに見る世界はとても冷たく感じられた。
雪はもう十センチぐらい積もっていただろう。
帰途も終わりに近づく頃、高速道路はすでに暗くなっている。
僕は毛布を首までかぶっている。いつも帰りはこのようになるのだ。
左の車窓に横須賀の町並みが光り、右の方には山がうっそうと連なり、ぽつぽつと民家の灯がある。そして闇が広がっている。
横須賀はトンネルがなければとんでもない田舎になってしまうそうだ。
僕は山の暗がりの中にある一軒の灯りをずっと見ていたが、それはすぐに後ろになった。
それから夜の七時頃に、家にたどり着いた。マンションは暗く、家では妹が一人寂しそうに留守番していた。友達の家に避難していたのかもしれない。それから、家族でごはんにした。白米が、うまかった。とても美味かった。この世で一番うまいのは、白いごはんだ。そう、心から思った。




