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習作時代  作者: 中川 篤
帰ってきて、入部して
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19話


 木下さんが退院し、翌年の二月には、ぼくが退院した。結局半年間、ぼくはそこに通っていたことになる。気分は浦島太郎だ。

 クラスメイトがぼくのことをその頃、どう思っているかなんて想像もつかなかった。ただ、地元で入っていたソフトボールのメンバーからは手紙が届いた。届いた手紙は引き出しの中で(しばら)くほったらかしにされていた。それでも嬉しかった。手紙は今でも保管している。


 別れはすぐに来た。人がだんだんといなくなり、入院は十月頃だったが、とうに二月を越えていた。人が少なくなって病棟はだんだんと寂しくなった。もしかしたら、棟内を少しでも明るくするために何人かの子どもたちはわざととどめ置かれていたのではないかとも思う。

 それから、ついに自分の番がやってきた。数日前何処かから手に入れたカメラをぼくは手にしていた。六人入りの病室に原先生が入ってきた。もともと男の子が入る六人入りの大部屋は二つあったがいつの間にかまとめられて一つになっていた。その時はベッドの上で木下さんと話し込んでいたところだった。何を話していたのかまでは記憶にない。

 原先生が自分を呼んだ。ナースステーションに向かうと、人がたくさんいた。両親もいた。あいさつして、ここから立ち去る日が来たのだという。

 手にしていた使い捨てカメラには、何枚か皆の写真が入っていた。


 えっと。もじもじして、木下さんに何か言いに行こうか迷った。だってもう会えないのだし。


 両親がそこを急かした。それで木下さんに最後に会わないことを選んだ。なぜって、それはそれで味のあるような気がしたからだ。きっと向こうも分かってくれる。人生ってそういうもの。勝手に抜けて、勝手に増えて行く。


 結構身勝手な理由だけど、自分のこのスタンスはかなり長く続いた。


 その上、

――「もう来ないぜ!」

 最後の挨拶が、それだ。お前。

――「二度と来るな!」

 と言って皆もぼくを送りだした。ちょっと笑っていた。第七病棟を出た後、会計を済ませるため、それから病院のロビーで父を待った。

 本棚から前も読んだジャンプの今週号を抜きとると、NARUTOの展開がぜんぜん変わっていない。まだ森の中だ。ぼくは驚いた。



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