18話
静岡はとても気候のいい所だ。
晴れになると、富士の姿が窓からちょこんと見える。
雨や雪の日、十二月に雪の降った日などは、窓からの景色が白い銀世界になっていることもある。病院暮らしなりにぼくはそこそこ満喫していた。
ただその日のぼくたちは外には出ずに、中で将棋を打ったり大富豪をしていた。つまり、いつもとそれほど変わらない。
小川くんの自慢のコレクションは遊戯王カードのレアファイル。もうホント何でもあった。都会者はやっぱ財力が違う。
――「これが印税の力……すごいぜ……小川くん」
ただしルールを知ってる子が小川くんの他にはぼくしかいなかった(「ジャッジマン」を自称)。当時はルールはよく知らないけど、カードをコレクションするという勢が結構いたのだ。
作家の本を買うと、その金は巡り巡って息子さんのオベリスクやラーの翼神龍に変わるというわけだ。(これは結構、的を得ていると思う。)
山下さんは名古屋人で熱狂的なドラゴンズファン。
そこでぼくらは賞杯表を作り、壁に張って、誰が一番勝ったか負けたか一目でわかるようにした。実を言うと、ぼくのはイカサマだらけだ。袖の下にカードを隠すなんてことはもう日常茶飯事で、きわどい勝負の時には大体イカサマが絡んでいた。
というわけで、ぼくの白星の数が一番多い……のだが、あまり勝ちすぎたせいで、ぼくは山下さんから一発くらう羽目になった。
――「先輩とトランプしてる時は負けろっ!」
――「はあい……」
言いながら、ぼくはそでのカードを隠した。バレたら大変なことになるな、と思ったからだ。
――「まあ、そう怒んないで」
――「そっすね……」
山下さんは不満たらたらで木下さんに従う。木下さんは優しいから何も言わない。
――「インチキすんなよ」
トランプの勝負に飽きると、それからウノ。ここのウノは三箱くらいのウノを混ぜて使っているので、一度に八人か十人ぐらい参加することが出来る。
で、大体ウノをするとなると、誰かがそのことを病棟中に触れ廻り、人をかき集めてくる。ただ今回はそのまま部屋から抜け、食堂に向かい、小川くんが何やら爺さんと将棋を打っているところに向かった。
爺さんの横には寝たきりの患者がいた。僕はその頃、障碍者に対してなかなか暖かいまなざしをもっていたように思う。寝たきりとは言っても、ベッドの中から首を傾け、小川くんと爺さんの将棋にたどたどしい口調で、
――「あっちに打て」
とか
――「こっちに打て」
とかいうような言葉を、二人が将棋を打つ合間に挟んでいる。
小川くんはそれで爺さんに負けた。
――「マ、そうだな、君は六級くらいだな」
すると誰かが、
――「やって見なよ」というので今度はぼくが席に着いた。
――「よしっ! やってやるか!」
☆
もちろん負けた。
寝たきりの子が時おり口を挟み、ぼくはそれを無視して(それは勝敗に影響しなかっただろうが)、負けた。彼はぼくを恨めしそうな目で見ていた。
爺さんが「やるか?」と言い、ぼくはそれからその子とも打った。
ちなみに勝った。




