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習作時代  作者: 中川 篤
帰ってきて、入部して
19/45

18話


 静岡はとても気候のいい所だ。

 晴れになると、富士の姿が窓からちょこんと見える。


 雨や雪の日、十二月に雪の降った日などは、窓からの景色が白い銀世界になっていることもある。病院暮らしなりにぼくはそこそこ満喫していた。

 ただその日のぼくたちは外には出ずに、中で将棋を打ったり大富豪をしていた。つまり、いつもとそれほど変わらない。


 小川くんの自慢のコレクションは遊戯王カードのレアファイル。もうホント何でもあった。都会者はやっぱ財力が違う。


――「これが印税の力……すごいぜ……小川くん」


 ただしルールを知ってる子が小川くんの他にはぼくしかいなかった(「ジャッジマン」を自称)。当時はルールはよく知らないけど、カードをコレクションするという勢が結構いたのだ。


 作家の本を買うと、その金は巡り巡って息子さんのオベリスクやラーの翼神龍に変わるというわけだ。(これは結構、的を得ていると思う。)


 山下さんは名古屋人で熱狂的なドラゴンズファン。

 そこでぼくらは賞杯表を作り、壁に張って、誰が一番勝ったか負けたか一目でわかるようにした。実を言うと、ぼくのはイカサマだらけだ。袖の下にカードを隠すなんてことはもう日常茶飯事で、きわどい勝負の時には大体イカサマが絡んでいた。

 


 というわけで、ぼくの白星の数が一番多い……のだが、あまり勝ちすぎたせいで、ぼくは山下さんから一発くらう羽目になった。

――「先輩とトランプしてる時は負けろっ!」

――「はあい……」

 言いながら、ぼくはそでのカードを隠した。バレたら大変なことになるな、と思ったからだ。

――「まあ、そう怒んないで」

――「そっすね……」

 山下さんは不満たらたらで木下さんに従う。木下さんは優しいから何も言わない。

――「インチキすんなよ」

 トランプの勝負に飽きると、それからウノ。ここのウノは三箱くらいのウノを混ぜて使っているので、一度に八人か十人ぐらい参加することが出来る。

 で、大体ウノをするとなると、誰かがそのことを病棟中に触れ廻り、人をかき集めてくる。ただ今回はそのまま部屋から抜け、食堂に向かい、小川くんが何やら爺さんと将棋を打っているところに向かった。



 爺さんの横には寝たきりの患者がいた。僕はその頃、障碍者に対してなかなか暖かいまなざしをもっていたように思う。寝たきりとは言っても、ベッドの中から首を傾け、小川くんと爺さんの将棋にたどたどしい口調で、

――「あっちに打て」

 とか

――「こっちに打て」

 とかいうような言葉を、二人が将棋を打つ合間に挟んでいる。

 小川くんはそれで爺さんに負けた。 

――「マ、そうだな、君は六級くらいだな」

 すると誰かが、

――「やって見なよ」というので今度はぼくが席に着いた。

――「よしっ! やってやるか!」



     ☆



 もちろん負けた。

 寝たきりの子が時おり口を挟み、ぼくはそれを無視して(それは勝敗に影響しなかっただろうが)、負けた。彼はぼくを恨めしそうな目で見ていた。

 爺さんが「やるか?」と言い、ぼくはそれからその子とも打った。


 ちなみに勝った。



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