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習作時代  作者: 中川 篤
てんかん①
13/45

12話


 中学校を卒業すると、ぼくはS高の機械科に入った。横浜市と横須賀市の境目にあるその高校はその前の年に修学旅行で生徒がなにか問題を起こしたらしく、偏差値が低い高校に成り下がっていた。


 ここではまず入学と同時に、新しい一年ボウズは箱根の旅館に連れて行かれて、その大きな峠がみえるところで、この高校の(あい)唱歌(しょうか)というものを延々と歌わされる。

 それは本当にどうでもいいような事のように、入学したばかりのぼくには思えた。たぶん、本当にどうでもいいことだったんだろう。

 旅館のぼろいテレビでガンダム(SEEDだ!)を見る相部屋の連中、さっそく起こった新一年同士の縄張り争い、薄っぺらなかつ丼、そうしたものが重なり、夜も寝つけなかった。ちなみに、そこで歌わされたのは、何だかしんみり来るメロディーの愛唱歌だ。

 ついでに言うと、ぼくの入った機械科には中々のやんちゃ者がそろっていた。その頃のS高の機械科は、ずいぶん荒れていたのだ。


 それから高校の方針で、ぼくたちは中学の授業を一からやりなおした。英語の書き方とかそんなくらいの、ホントに一からだ。

 これが必要なことかはわからない。けど、ぼくは不満たらたらだった。むしろ中学にいた頃よりも、なんだか、勉強が簡単になったように感じられた。

 一度だけ、英語教師の鹿内(しかない)に、もっと授業の(しつ)を上げてくれ、と頼みこんだことがある。けれど、あっさりはねのけられた。


 三年の間、この教師と英語の授業で付き合うことになったが、クラスは鹿内をずいぶん軽く見て、馬鹿にしていた。

 でも最後の授業で、鹿内は泣いた。今ならもっとうがった見方をするかもしれないが。その頃は今よりもずっと単純で、馬鹿で、汚れていなかった。


 高校生活の締めくくりは今でも思い出したくない。それから卒業し、誰も来ない一人きりの部屋で、自分が何も持ってないことに気づいた。何もない。何一つない。同輩にはもっといい空気を吸ってるやつがいる。なのに俺は。



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