表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

02

 中等部と高等部、どちらの校舎も、小学生へ向けたオープンキャンパスのため、在学生は本日午後から立ち入り禁止になる。

 午前だけで授業が終わる開放感から、クラスメイトの殆どがあからさまに浮ついていた。要もその中の一人だった。小鳥の写真が撮れれば、念願の将棋盤を買ってもらえる。図書室で野鳥図鑑を捲っていると、不意に隣から声を掛けられた。

「鳥、好きなの?」

 (かなめ)は思わず飛び上がった。

 声の主は、クラスメイトの波東千尋(はとうちひろ)だった。後ろに倒れそうになった椅子を寸前で受け止め、要の様子に苦笑しながら辺りを控えめに見渡している。それに倣って図書室の様子を窺うと、不審そうにこちらを見る生徒の姿が散見された。椅子を引く音が図書室中に響き渡ってしまったから、すっかり煙たがられているようだった。

「要くんさ、こういう所では静かにした方がいいよ」

 呆れた表情を作った千尋は、人差し指を唇に当てるジェスチャーをして見せた。

「君のせいじゃないか……」

 要は座り直すと、彼を睨んだ。

 きっかけはわからないが、千尋は要を見つけるとよくからかう。ただのクラスメイトと呼ぶには遠いし、友達と呼ぶには近い。名前は知っているけれど、なんて呼んでいいか迷う。向こうは要を下の名前で呼ぶが、真似をして千尋と呼び返すのは違う気がするし。だからあまり呼ばない。

「だって、真面目に鳥なんか見てたから。お腹でもすいてるの?」

「そんなに切羽詰まってない。ちょっと鳥の名前がわかんなくて調べてただけ」

「へえ。どんな鳥?」

 現像した赤い小鳥の写真を見せる。

「こんな鳥だよ。父さんが撮ったんだけ、ど、」

 言い終わる前に、千尋が要の腕を掴んで締め上げた。

「この鳥が、何?」

 こんな目つきもするんだ。要はふるえ上がった。合わせた視線を逸らすことも出来ずに、真黒い千尋の瞳にただ怯えた。

「痛い、波東、はなせ」

 乾いた喉から絞り出したか細い声でも千尋の耳には届いたらしい。腕を掴む手の力が緩められていく。千尋は何も言わずに図鑑を捲り、あるページで手を止めて要の前に滑らせた。写真と同じ鳥が写ったページには、アカショウビン、と書かれていた。

「ほら。君が探してるのはこれでしょ」

「なんでちょっと怒ってんの」

「そう見えた?」

 頬杖をついて窓の外に顔を背ける姿は、どう見ても不機嫌に思える。こんなやつの思考なんて考えてもわかりっこないし無駄だと、むっとして要は図鑑を閉じて席を立った。

「じゃあね。おれはもう行くから」

「どこへ?」

 千尋は目を丸くして要を見上げた。

「関係ないだろ」

「学校の裏山?」

「……君ほんとうるさい、じゃあね!」

 にこにこと愛想良く手を振る千尋に背を向けて、要は図書室から飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ