第1話 入学式
新入生が最初に参加する行事である入学式。ニイカはロイキズ魔法高等学校の敷地内に併設されている講堂で参加することになった。
しかし入学式は体育館で行われるのが常識であると認識していたニイカにとってこのような形式は非常に苦痛だった。
「校歌斉唱……」
「校長のスモーク=シャント……」
「教育委員会のハル=モルマ……」
教頭の声が講堂内に響く。魔法で音を増幅し、大きい声を出さずとも講堂にいる全員の耳に声が届けられるが興味のないニイカにはこれまた苦痛であった。
「……長いな」
ニイカは小声でそうつぶやく。田舎特有の身内ノリが多い式典に慣れきった彼女にとってこういった格式張った入学式はかなり居心地の悪い空間であった。
これからの事を考えると今のうちに慣れておいたほうがいいのは彼女も自覚はしていたが、今はただただ苦痛の連続でしかなかった。
「新入生を代表して、ギーマ=リタさんが誓いの言葉を……」
その言葉が告げられ、すこし座席がざわめき始めた。聞いたこともない名字だ、どこの家の者だ、貴族特有の疑問が飛び交う。騒々しい中、銀髪を肩まで伸ばした女子生徒が壇上に上がる。
「……は?」
ニイカの口からも困惑の声が勝手に出る。それに反応した右隣の女子が怪訝そうな顔で見てきたので「あ、すいません」と謝り、姿勢を正した。しかしニイカは気が収まらず質問した。
「すみません、お聞きしたいのですけれど……あの方のことご存知でしょうか?」
「うーん、知らないけど……代表の挨拶してるってことは首席合格の子なんじゃないかな?」
「あぁ……はい。ありがとうございます」
ニイカは内心穏やかではなかった。壇上の生徒を脳内で何回も確認し直してもなんとなく聞き馴染みがある名前と見覚えのある顔だったからだ。
しかしいくら考えてもいつどこで、どんな人物だったかすら思い出せない。ニイカの頭の中には彼女への既視感だけが薄くあった。
「でもたしかに気になるよねー……首席合格の子ならすごい良家のはずなのに誰も知らないんだもんね」
「……庶民からでも首席にはなれると思いますが」
「いやいやー、家庭教師もつけれないのにどうやって勉強するのさ」
「……えぇ、はい。たしかに……そのとおりですね」
田舎育ちな以上、高度な勉強は自力でやるのが普通だった彼女にとってその発言は甘ったれた言葉のような、また文化の違いのようなものを感じる言葉であった。
いつの間にか新入生の答辞は終わったらしく、新入生代表は壇上から降りて自席へ戻っていた。
その後はニイカが期待するような一発芸大会などがあるわけもなく淡々と進行していき、終わる頃には自宅から学校に来るまでかかった3日分の疲労も上乗せされて彼女の目からは生気が完全に消え失せていた。
「……」
そんなマイナスな状態も逆に生まれ持った美貌のおかげでクールな雰囲気に拍車をかける。その結果一部の男子の視線は彼女に少し集まりだした。
ただニイカにはそんなことを知る由はなく、ただただこの退屈な時間が終わるのを待つのみであった。