表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第0話 夢物語


「私は魔王になります」


 少女は高らかにそう宣言する。進路相談の場におかなくても意味不明な発言に担任は唖然とする他なかった。


 彼女の名はツィマ=ニイカ。ド田舎のドーク中学校に通っているが先日、名門校である【王立ロイキズ魔法高等学校】への進学が決まった。


 進路相談という建前でそれを祝おうと考えていた担任のジモー=テンは焦りを隠せなかった。


「も、もう一回言ってくれ。ニイカ、高校を卒業したらどうするつもりだ」

「魔王です」


 言葉数こそ少ないが普段から学級委員として真面目に仕事に取り組み、学校行事は皆を率いて成功させる。それでいて雑誌の表紙を飾ればすぐにでも売り切れ御礼になるであろう容姿。

 いわば完璧人間と言っても差し支えがない。それがツィマ=ニイカという人間だった。


「そ、それは両親には説明したのか?」

「しています。猛反対されました」

「なら辞めたほうがいいんじゃないか。家族の意見も大事にするべきだと思うぞ!」


 もちろん人間として彼女の将来を心配する気持ちもあったが、この逸材はくだらない夢物語で人生を無駄にしてはいけないという使命感も反対させるに至った。


「私の人生です。親は関係ないので」

「か、関係ないって……家族だろう?」

「少なくとも、私は魔王になるためなら家族とも縁を切ります」


 ニイカは別段家族との関係は悪いわけではない、むしろ良好と言ってもいいぐらいには問題はない。

 そもそもの話として類まれな頭脳、運動神経ももとを辿れば親から努力するよう勧められたが故の結果であり、それは親と子の信頼関係がなせたものといっても過言ではないものであった。


 それにもかかわらずこの発言に踏み切ったニイカの覚悟を感じ、ジモーはこれ以上は彼女の道に口出しはしないけとにした。


「ぐぅ……な、なら一つだけ聞かせてくれ」

「はい」

「なんでお前は魔王になりたいんだ?」


 まず最初にすべきだった質問をジモーは汗を流しながら聞いた。その返答がふざけたものだったとしたらはたして自分は味方でいれるのだろうかという心配も発汗の理由だった。


「私に唯一なれなさそうなものなので」


 ニイカも自身がいかにおかしい事を言っているかは自覚している。

 たしかにこの世界には国を支配する魔王という存在はいる。だがそれはこの片田舎からしたらほぼ無縁の話。ましてやそのものになるなどと与太話もいいところであった。


「魔王として君臨し、世界を支配する。具体的なことは決まっていませんが、これが私の進路です」


 ジモーがこれ以上何も喋ることがないと認識したニイカは軽く礼をし、教室から出ていこうとする。


「あっ、おい。ニイカ、これ持っていけ」


 ジモーはニイカに小さな小包を投げ渡した。ニイカは受け取ってすぐに中身を確認すると、中には鳥の形の黒い宝石を埋め込んだ髪留めが入っていた。


「……髪留めですか?」

「お坊っちゃんお嬢様だらけのとこに行くんだろう? なら少しでも身なりを良くしないとな」

「……先生、依怙贔屓は良くないと思いますが」


 ジモーは痛いところを突かれて黙りこくるしかなくなった。だがニイカは髪留めを着けると改めてジモーに向き直り、優しく微笑んだ。


「まぁ、でも……テン先生、ありがとうございます」


 ニイカの魔王としての第一歩はこの髪留めを着けると同時に始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ