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「改めまして私、ノワール家第三王子。ノワール=ユーリアスと申します。
貴殿の令嬢、アネモネ殿との婚姻を認めて頂く為に参りました」
ユーリアスは第三王子の名を名乗り、両親の前に跪いた。
両親は固まっている。私も固まっているし混乱もしている。
当然、王子であることなど全く以て想像していなかった。
ていうか今までの言動、不敬罪とかで捕まらないだろうか、と心配になってしまう。
「ユーリアス様、頭を上げてください!!
アネモネ、貴方も頭を下げて」
「えっ、はい」
私は言われるがまま頭を下げ、両親も頭を下げる。
室内にいる皆が深々と頭を下げる光景は、何も知らない人間から見れば、何かの儀式でもしているのかと思うだろう。
たっぷりと時間を掛け、見計らったように全員が頭を上げる。
王子は笑顔で、両親も引きつった笑みを浮かべながら。
「ユーリアス様が来られるなら、もっと上等な茶葉を用意しておけばよかったのですが…」
「いえいえ、とんでもない。
私めはアネモネ殿との婚姻をお願いする立場ですので。お気遣いされなくても」
「…」
ユーリアスの言葉に、さらに両親の顔が引きつった。
「あの、間違いではありませんか?
以前お会いしたシスタはうちの次女で、そこにいるアネモネは長女です
アネモネはとても貴殿に似合うような―――」
「なんと、わたくしはとてもアネモネ様に相応しくないと!!」
「滅相もございません!!」
ユーリアスは演技がかった、というより冗談のつもりなのだろうが、両親からすれば王族に無礼を働くことは重罪だ。
とても笑える冗談ではない。…まぁユーリアスは判ってやっているのだろうけど。
「しかし、そうですか。相応しくないと。
いやはや、これはとても困った」
「いえいえ、アネモネでしたら、そんないくらでも―――」
ユーリアスの演技は続く。というかいくらでもは流石に…増えないよ、私は…。
私はこのコントを呆然と眺めていたわけだけど、突然ユーリアスが私の腕を取った。
「でしたら仕方ありません。私たちは愛し合っている仲。
ご両親に反対されたからと言って、とても離れることは出来ません。
本当はそちらの家系とも良好な関係を築きたかったのですが―――ここは駆け落ちする他ありませんね」
「あっ、ちょっと…」
そういうとユーリアスは半ば強引に私の腕を引っ張り、退室したのだった。
両親はこの茶番をどういう風に捉えただろうか。
せっかくの王族と繋がれるチャンスを。私という奴隷が居なくなることを。
その心情を考えると―――少しだけスッキリした。
「珍しく笑ってるね」
私の手を引くユーリアスは意外そうに言った。
笑っている?自分の頬に手を当てる。確かに口角が上がっていた。
「こういう時は、こういうセリフがいいんじゃないかな?」
屋敷を飛び出し、馬車に乗り込む直前。
屋敷の方を。両親の方を。過去を振り返り、私は言ってやった。
「ざまぁみろ」
私の中のしがらみが一つだけ消えた気がした。
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