7
次の日の午後に私はユーリアスと共に屋敷へと戻った。
学園から馬車を使ってもそれなりに時間の掛かるうちの領。
ハッキリ言ってしまえば辺境の地にあるような場所だった。
「よかったのですか?こんな田舎の領主の娘を引き取って」
「構わないさ。調べて知っていたからね」
「そうでしたね…」
昨日の時点で私の子供の頃の夢まで調べていたのだ。
領地の場所、そして経営状況についても既に知っているのだろう。
「しかし、いつも一方的に知られてばかりですね。
少しはそちらのことも教えてくれてもいいんじゃないですか?」
私は不満を漏らした。
一方的にこちらの情報だけ知られているというのは、不気味だった。
「何だ、君でも興味を持つことがあるんだね。
てっきり知らなくていいです。余計な情報です。とか言われると思ってたよ」
「確かにそうかもしれませんが…」
昨日時点…婚姻関係を結ぶまではそう言っていただろう。
だけど実際、婚姻まで結びこうして両親に挨拶に行くのに、何も知らないというのは恐ろしかった。
「けどまぁ、今は秘密かな?」
「…蹴とばしますよ?」
「まぁ、そう怒らないで」
この期に及んでまだ秘密なのは、よっぽど後ろめたい事情でもあるのだろうか。
と思ったが、ユーリアスは説明してくれた。
「1つは詳しい説明を今するよりも、君の両親に一緒に話した方が早いってこと」
「うーん。婚姻に関して効率を求めます、普通?」
やはり変わり者だ。ていうかこの変わり者と、その家族の家に入るのか―――少しだけ憂鬱な気持ちになる。
「そしてもう一つが―――」
「…」
ユーリアスはニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる。
よく見たことのある表情。こうなれば好奇心に駆られた時の顔だ。
「僕の家のことを話して、君がどんな表情をするのか気になるんだ」
「…そうですか」
嫌な寒気が背筋を凍らせる。緊張で脈拍も上がる。
ただでさえ嫌いな両親に会うのに、さらに憂鬱な気持ちが一層高まる。
この馬車から落ちれば、この状況から逃げれるのでは?
私の現実逃避を見越してか、ユーリアスは私の腕を掴んだ。
屋敷に到着した。豪華絢爛、分不相応。
いつ見ても私は自分の暮らしてきたお屋敷が好きにはなれなかった。
代々受け継いできた領地は、年々納められる税が減っていく。
それなのに対策を講じることも、節約することもしない。
いや実際は不満だけ言って、そのストレスを解消するように浪費をする。
もしかしたら自分の代で使い切るつもりなのかもしれないと思う程にだ。
そういった意味では、ユーリアスの家に嫁ぐことに対し、不満を言える立場ではなかった。
どういう家柄かはわからないものの、この家程ではないだろう。
むしろ申し訳なさを感じるが、それに関しては既に知られていることなので、私がどうこう言う立場ではない。
「既に婚姻のことは伝えています。
多分応接室に居るはずなので」
私は侍女に軽く挨拶を交わしながらユーリアスを案内する。
彼も壁に掛けられた絵画や陶器に感嘆の息を漏らすが、時々意味ありげに眉を歪ませた。
「これは偽物だね」
「…そうですか」
残念ならが両親か先祖か、あまり目利きの才能は持っていないようで。
きっと見栄で買っているだけで、本人には美術品を楽しむ感性は持ち合わせていないのだと思う。
それよりも―――
「よく知っていましたね」
「まぁね。昔から好きで良く見てたから」
「そうですか」
ますます謎が深まるばかりだが、彼が言うには両親に会う時に説明してくれるらしいので、大人しく待つことにする。
応接室に近づくにつれ、男女が談笑する声が聞こえる。
そして更に近づくと、会話の内容が断片的にだが聞き取れた。
相手の格がどうとか。資産がどうとか。下世話な笑い声だ。
私たちが到着したことは、既に侍女から聞いているだろうに。
どうしてそう、大声で話すことが出来るのだろうか。
心証は最悪だろう。いっそ婚約を断っても…。
「ん、どうしたんだい?別に僕はどうも思ってないさ。
むしろそうか、君はこういう家で育ったからか…。
より理解が深められて嬉しいよ」
「…そうですか」
気にしていない、というのは安心したが、両親の言動で私のことを理解されるのは、少し不満ではあった。
「さぁ、面白くなるね。
君も、君の両親も、どういう反応をするのか」
「…」
彼はまるで今から劇でも見に行くかのような心持ちで、応接室の扉に手を掛けた。
「失礼します。そしてお会いするのは2回目でしょうか」
『!?』
ユーリアスの入室に、両親は目を丸くしていた。
思ってたよりも美男だったからだろうか?2回目ということは知り合いなのだろうか?
私の疑問を他所に、ユーリアスは両親の座るソファーに向かって膝を突いた。
「改めまして私、ノワール家第三王子。ノワール=ユーリアスと申します。
貴殿の令嬢、アネモネ殿との婚姻を認めて頂く為に参りました」
そう頭を下げて宣言したユーリアスは、我が王国の名を名乗った。
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