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「賭けの報酬を今から使わせてもらうよ」
「…」
ユーリアスは落ち着いた、それでいて怒りの感情を少しだけ滲ませながらそう言った。
怒る理由はわかっている。私が―――
「僕も生徒会役員に入れて欲しい」
「…はぁ?」
ユーリアスの予想外の言葉に、私は思わず気の抜けた声を出してしまった。
王族に対する敬意はこれっぽっちもなさそうで、罪に問われてしまいそうだった。
私の思考が完全にフリーズしていると、ユーリアスは相変わらずの怒った様子で説明した。
「君さ、何で僕が怒っているか本気でわかってないでしょ」
「…婚約をこちらの事情で一方的に白紙にしたからですよね」
「…ほんとに君はさぁ」
ユーリアスは深く、深くため息を吐いた。
心底呆れていることはわかるものの、理由が全くわからない。
他に何か――。
そう言おうとした時、ユーリアスの後ろ。扉の方から声がした。
「アネモネさん。水臭いですよ!!」
「えっ、アインさん!!」
アインさんも勢いよく入ってきた。
それもユーリアスと同じように、怒った様子で。
「いつから居たの!?」
「始めからです!!私も待つのは苦手じゃないので!!」
私の周り、待つこと得意な人多過ぎない?
それはさておき、水臭いと彼女は言った。
ユーリアスの反応を見るに、二人が怒っているのは共通の理由だろう。
つまり―――
「あっ…」
「やっとわかったんだ…」
ユーリアスは呆れた様子でまた深いため息を吐いた。
「どうしてまた一人で抱えようとするかな?
僕たちを頼ってくれてもいいじゃないか」
「…」
ユーリアスの言葉にアインさんもブンブンと首を縦に振った。
二人が怒っているのは、私が一人で生徒会をやろうとしたからだ。
また一人で背負い込み、傷つき、苦しんでしまう。
妹が抱えた重荷を、そのまま私が担いで。
せっかく今日、仲間に頼ることの大切さに気付いたのに。
せっかく今日、仲間とやる仕事が楽しいことを知ったのに。
「まぁ、僕はどっちみに賭けの報酬で、君が嫌だと言っても生徒会に入らせてもらうけどね」
「あっ、ずるいですよ。
私も断られても無断で勝手に居座りますので」
「…二人とも」
そうだった。今の私は一人ではない。
生徒会室で独りぼっちで仕事をしていた人形ではない。
「二人とも。私の生徒会に入っては貰えませんか?」
『もちろん』
私の新しい青春が始まった―――。