19
「ユーリアス様。
申し訳ございませんが、婚約の件、白紙にさせていただけないでしょうか?」
「…」
覚悟を決めた私は、我が国の第三王子にお願いした。
本来ならば私なんかが結婚出来るような立場ではない。
白紙にされることはあっても、する側になることはあり得ないはずだった。
「理由を聞かせて貰えるかな?」
ユーリアス様は一瞬だけ驚いた表情を浮かべ、今は厳しい顔つきへと変わっていた。
怒っているのだろうか。私はチクっと罪悪感に苛まれた。
それでも引くわけにはいかなかった。
「私がシスタの代わりに生徒会長になります。
学校のことも、家ことも。もう妹にだけ責任を押し付けません」
それは私の意思だった。
両親に言われたわけでも、シスタに押し付けられたわけでも。
何より自分が逃げる為に選んだ道でもない。
自分の意思で、この責務を全うしたいと思ったのだ。
もし私が生徒会長になれば、以前の徹夜続きの生活に戻るだろう。
いや、今までの影の仕事だけでなく、表側の仕事もやることになる。
仕事量は今までの倍は覚悟しないといけないだろう。
もしそうなれば、ユーリアスとの婚約の理由。
彼の手伝いをする約束は果たせなくなる。
だから今この場面で、婚姻を白紙にしなくてはならないのだ。
「なるほどね…。
君の考えはよくわかったよ」
その表情は依然として不機嫌そうだった。
短い期間だったけど、彼と過ごしてこんな表情をするのは初めてだった。
いくら妹の為とは言え、完全にこちらの事情だ。
相手からしたらたまったものじゃないだろう。
特に相手は王族。それなりに手続きもあったのだろう。
もしかしたら反逆罪や不敬罪なんかに問われる可能性だってある。
それでもだ。それでも―――。
私が次に口を出そうとした瞬間、彼は落ち着いた声色で言った。
「そう言えば賭けの報酬をまだ使っていなかったよね」
「…そうでしたね」
私が生徒会の業務に関わらなくなって、何日で生徒会の業務が回らなくなるか。
一か月以内ならユーリアスの勝ち。それ以上なら私の勝ち。そういう賭けだった。
シスタが倒れたことで、完全に私の頭から忘れ去られていた。
結果は今日であり、5日目だ。
つまりユーリアスが賭けに勝った。
今思えば生徒会役員がシスタだけしかいないことをユーリアスは知っていたのだろう。
不平等な賭けだったのかもしれない。だがそれは今問題ではない。
勝負の報酬は、負けた方に1つだけ言う事を聞いてもらう事。
「…」
婚約破棄をさせない。そう言われたら私は従うしかない。
法律だとか、モラルだとか、そういう理由ではない。
私を救ってくれた彼を、これ以上裏切れない。
結局私は、弱いままなのだろう。
救ってくれた恩人と、救わないといけない妹。
二人を天秤にかけた時、どちらを選ぶべきかわからない。
だからまた、私は運に任せた。
「それじゃあ、賭けの報酬を今使わせてもらうよ」
「…」
私はユーリアスの言葉に任せた。
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