表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/21

16

いつからお姉ちゃんとの仲が悪くなったんだろう。

私は朦朧とする意識の中で考えた。


子供の頃は仲が良かった。

面倒見が良くて、優しくて、そして頭の良いお姉ちゃん。


私はお姉ちゃんが大好きだったし、憧れていた。

ずっと一緒に居たいと思っていた。


けれど大きくなるにつれて、私は周囲がお姉ちゃんとどう接しているのかを知った。


私が両親から受けて来た愛情を、お姉ちゃんは受けていなかった。

理由はわからない。理由があるのかもわからない。


両親は私を可愛がり、お姉ちゃんを迫害した。

罵倒し、見下し、いつもイジメて楽しんでいた。


なのにお姉ちゃんは反抗しなかった。

その姿に私は苛立っていた。


私の大好きなお姉ちゃんなら、パパっと解決できるはずなのに。

子供ながらの幻想だった。


ただ私は、目の前で両親にイジメられているお姉ちゃんを、自分の憧れのお姉ちゃんと認めたくなかった。


「アネモネ―――」


私は気づくと、実の姉を名前で呼んでいた。

憧れの姉を記憶の中に押し込んで、迫害される弱い女性に名前を与えた。


それからは自分でも醜悪だと思う。

あの女のようにはならないように、両親に見捨てられないようにと、自分なりに必死に取り繕った。

彼女をイジメることで、両親に自分も仲間だと思わせた。



生徒会長という座も、王族との婚姻も私自身はどうでもよかった。

けれど両親の期待に応えるしかなかった。

もし裏切ることがあれば、今後は私が『アネモネ』になるのだから。


けれど私は―――お姉ちゃんのようにはなれなかった。



目を覚ますと目の前には真っ白な天井があった。

学園の医務室の天井だろう。けれど前後の記憶が曖昧だ。


アネモネによって生徒会の仕事をやる羽目になって、けど終わらなくて…。

それで―――


「もう大丈夫なの?」

「!?」


私の顔を覗き込む女性がいた。

優しい声色で、心が安らぐ。けれど今の私にはたまらなく毒に思えた。

彼女の声を聞くと、私の中の罪悪感が刺激される。


「アネモネ―――」


私は搾りだすように声に出した。

歯を食いしばり、自分自身に言い聞かせる。


自分の立場を。自分が今までやった行いを。

もう二度と戻ることの無い関係性を…。


「仕事はどうなったのよ」


私は不愛想に言い放った。内心を悟られないように。


「ちゃんと締め切りの近い分は終わらせられたよ。

 それでもしばらくは忙しくなりそうだけどね」

「…」


私が目を通した範囲でも、今日までの締め切りの物は結構あったはずだった。

けど彼女が言うのなら本当なのだろう。


全てに目を通し、期日を確認した上で優先順を組み立て、完璧にこなす。

今までに1度たりとも提出期限を過ぎたことはなかった。


やっぱり…私じゃ勝てないや…。


「そっか…よかった…」


私は心の底から安堵した。

仕事が無事に終わったこと。そして―――


「やっぱりお姉ちゃんは凄いや…」


大好きなお姉ちゃんが、やっぱり優秀だと再確認できた。

その事実が堪らなく嬉しかった。失ってなどいなかった。


両親と一緒に私がお姉ちゃんの才能を壊したのかと思っていた。

自分の手で、大好きな姉を殺したのかと思っていた。


もう二度と戻らない関係性だとしても、それでも『お姉ちゃん』が生きていたことが嬉しかった。


気がつくと目の端に涙が溜まり、頬を伝い枕を濡らした。


☆印、いいね、ブックマークを押して貰えると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ