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そして私が生徒会の仕事を手伝わなくなって5日が経過した。
「えっ?」
私が教室に入ると、そこにはシスタが立っていた。
学年の違う私たちは当然、教室は別の場所にある。
シスタは私が来たことに気づくと近づいて来て、そして―――
「ごめんなさい。お姉さま―――」
しっかりと頭を下げた。
プライドの高いシスタが謝罪をしたのだ。見下していた私に対して。
いや、それだけではない。
目の下にはくっきりとクマが出来ている。髪の毛はボサボサ。そして失礼ながら少しだけ臭った。
手には血豆が出来ており数枚の書類が握られていた。
徹夜で作業をしていたことが容易に想像がつく。
もしかしたらあれから寮にも戻っていないのかもしれない。
今更どの面下げて―――なんてことを一瞬だけ思った。
だけどそれ以上の感情が心に宿っていた。
周囲のクラスメイト達は笑っていた。
シスタの容姿を、臭いを、謝罪を、仕事が出来てないことを。
何もしていない彼女たちは笑ったのだ。
本当は自身のこんな姿を他人には見せたくなかっただろう。
だけどシスタは私の前に現れ、頭を下げたのだ。
それが彼女にとってどれほどの苦痛なことか、私にはわからない。
だけど以前の彼女ならば絶対にあり得ないことだと言う事はわかる。
我が妹は仕事を投げ出すことなく、そして終わらせるために、自身の恥を忍んでここまでやってきたのだ。
「もう大丈夫だから。
後はお姉ちゃんに任せて」
「―――っ」
瞬間、妹は糸が切れたようにその場に崩れ掛けた。
寸前の所でそれを抱きかかえる。
本当にギリギリで意識を保っていたのだろう。
私は久しぶりに妹の頭を撫でた。
子供の頃のように。両親に差別されて以来だ。
「あらこの教室、臭いますわね」
「…」
1人の令嬢が鼻をつまみ、手で仰ぐ。
その様子に周囲の他の人間も、くすくすとシスタを見て笑い始めた。
瞬間、私の中で何かが千切れた。
「うるさいわね!!
私の大事な妹に何か文句があるわけ!!」
「―――!!?」
生まれて初めてこれほど大きな声を出した。
喉が痛い。けれどその痛みが妹との絆を感じさせた。
さっきまで笑っていた彼女たちは、バツが悪そうに黙り込む。
私も賛同するとでも思っていたのだろう。
つい先日までシスタは私に嫌がらせをしていたのだから。
だけど私は、妹をイジメる人間は誰であろうと許さない。
「アネモネ、これは―――なるほどね。
僕に何か手伝えることはあるかい?」
「妹を保健室に連れていって貰えますか?」
妹の身体をユーリアスに預けると周囲がざわめいた。
「王族にそんな汚れた―――」
「―――ッ」
私がギラリと睨みつけると、そんな周囲の声は再び静寂へと変わる。
「もちろん。君の妹さんは僕が送り届けるよ。
君たちのことは僕から教師にも言っておく」
「ありがとうございます。
それと放課後の予定ですが」
「そっちも大丈夫。
君がやりたいと思うことをやればいいさ」
「―――感謝します」
私は妹が持っていた書類を受け取り、5日ぶりに生徒会室へと足を運んだ。
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