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「賭けの対象は、君が生徒会の仕事を手伝わなくなったら、何日で機能が停止するか。
厳密に言うなら、何日で君に謝罪し手伝いを請いに来るかだね」
「…中々性格の悪いことをしますね」
王族はてっきりもっと身も心も紳士な人間の集まりだと思っていたけど、どうやら違うらしい。
流石に意地が悪すぎる。
あまりに私が無能だからと言ってもあんまりだ。
「そんな、いくら私が全ての事務作業を引き受けたからと言って、私が居なくなって機能不全に陥るわけないじゃないですか」
生徒会役職は、たしか6名から構成されたはずだ。
私は生徒会長のシスタ以外見たことはないが。
慣れない作業があったとしても、6人もいれば問題が起こるはずない。
第一、仮に問題が起きたとしてもシスタが私に謝罪するようなことは絶対にない。
「つまり君は、君が居なくても生徒会はちゃんと運営される、に賭けるわけだね?」
「…そうですね」
そんなもの論理的に考えて当たり前なことだ。
こんなもの賭けにもなっていない。
「無制限は予想外だったけど、そうだね。
じゃあ、1か月以上もったら君の勝ちでいいよ」
「!?」
それはつまり、ユーリアスは1か月もしない内に、業務が回らなくなると思っているということだ。
まさかそんなわけ―――。
「保険は掛けたけど、僕は5日も経たずに悲鳴が上がると思うけどな」
「…そんなまさか」
―――そのまさかだった。
次の日の朝、私とユーリアスは朝一でシスタに会いに行った。
「というわけで、今後君のお姉さんには生徒会の業務の代わりに僕の仕事を手伝ってもらうことになったんだ。
お願い出来るよね?」
「…そうだったんですね。こっちは大丈夫ですよ。
うちの姉に出来たのですから」
「…」
猫撫で声ながらトゲのある言い方。
相手が王子でなければ掴み掛かってそうな勢いだった。私に。
実際、時々こちらを睨みつけてきている。
吐きそうな程に恐かったけど、どうにか息を飲み込んだ。
「けど大丈夫なんですか?
王族の書類なんて重要な物を、姉なんかに任せて。
もしよろしければ、私がお手伝いに行きますが」
それは確かに不安であった。
私なんかにそんな重要なものを任せても良い物かと。
だが―――
「君には無理だよ。
君のお姉さんにしか任せられない」
「―――っ!!」
シスタは初めて作られた笑顔を辞め、真顔になった。
怒りの感情もなく、無に近い表情。
理解出来ないことに遭遇したような、そんな表情だ。
「それじゃあ、精々頑張ってね」
「…わかりましたよ」
そういうとユーリアスは歩き出し、私も付いていく。
後ろからは今にもナイフを持って追いかけてきそうな程殺気を感じるが、振り返る勇気すらない。
「それで王族の業務っていうのは?」
「あー、ゆくゆくはやってもらうけど、しばらくは気にしないで。
君との賭けが終わるまではね」
シスタを挑発する為の嘘だったのだろう。
私は少し安心した。
「それじゃあ、今日の所は僕もお父様に話に行かないといけないから。
君も放課後ゆっくりするといいよ」
「…わかりました」
そういうとユーリアスは学園の外へ去って行く。
ユーリアスが言うように私は久しぶりに、今までの睡眠負債を返済するように、しっかりと惰眠を貪った。
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