9。異世界転移にゃ
家を出た二人は、アストリアに迎えに来てもらい、神界でルビィとレオに合流した。
ここで最終打ち合わせの後、異世界転移が行われる手筈となっていたのだ。
「まずは~比較的安全な森の中に転移してもらいます~。一応私の結界を張っておきますね~。一週間は保つので~そこで持ち物やスキル~、魔法の確認をお願いします~。後~、分からない事は~ルビィさんか~レオさんに聞いてください~」
アストリアの説明を聞きながらも、政継と里子は落ち着かずソワソワしていた。
「いよいよ始まるんだな、なんか緊張してきたな…」
「ドキドキするね…、どんな所かなぁ」
政継はレオを、里子はルビィを肩に乗せ、緊張を滲ませた様子で言葉を交わす。
政継は「父様、落ち着いて下さい」と柔らかいレオの尻尾でスリスリされ、里子は「母にゃんも心配しなくていいにゃ」と頬ずりされて、体の力を抜くことが出来た。
長いようであっという間の6ヶ月だったな、危険な事も有るんだから、俺がしっかりしないといけないんだ!
そう気持ちを切り替えて、アストリアに向き直る。
「色々と有難う御座いました。ルビィに会う事が出来たし、レオという息子も増えました。また一緒に暮らす事が出来るのも神様のおかげです」
と、心から感謝を伝えると、里子も其れに習って頭を下げる。
「もとはと言えば~私のせいなんです~、ご迷惑をかけて申し訳ありません~。どうかアストリアを楽しんで下さいね~あと~、これは私からのプレゼントです~」
そう言って、政継の手に皮の小袋を乗せる。
中には黒い石が付いた、銀色の指輪が4つ入っていた。
その中の一つを、里子は手に取り繁々と眺め。
「指輪?オニキスみたいですね」
「はい~オニキスです~。お二人の世界では宝石に意味が有るんですよね~?、この石の意味は~〈成功〉〈夫婦の幸福〉〈厄除け〉などです~ピッタリですよね~。そして~ただの指輪じゃありません~空間魔法が付与されてます~。凄いんですよ~、私が創ったんです~」
聞くと、物がたくさん収納出来て(生き物は駄目)、時間停止に、4つの指輪がリンクして繋がっている為どの指輪からも出し入れが出来る優れ物で、使用者が俺達四人に限定されていて、使っていく事で成長し、機能が増えるんだとか…。
政継は、インストールされた記憶の中からその知識を探り当てる。
えーっ!! 箱型や鞄型は存在するけれども指輪型は存在しない??……、まさしくゴット級のレアアイテムって事!? ヤバいヤツでしょ、コレ…。
「失くしたらどうしよう……」
流石に里子も指輪のヤバさに気が付いたのか、引き攣った笑顔を見せていた。
「大丈夫です~、本人の意思でしか外せないので~落とす心配はありません~。それでも安心出来ないのであれば~、こうして~こうして~こうしましょう~……、はい~もう大丈夫です~外れても自動的に使用者に戻ります~」
……益々ヤバいモノに化けたよ……、もうこれ以上は何も言わないでくれ!!
という気持ちを込めて、政継はアストリアに愛想笑いを向けるのだった。
「あと~引っ越しの際にお預かりしていた~お二人の私物は~既に指輪にいれてあります~、他にも必要そうな物は入れておきましたからね~、手荷物もついでに入れると楽ですよ~。指に嵌めてください~ルビィさんとレオさんは尻尾が良いと思います~自動でサイズが合う様になってますからね~」
アストリアに促されるまま、各々が指定された場所に指輪を嵌め、意識を持参した旅行鞄に向けると、あっという間に鞄が消えていまったのだった。
驚きと、感動に目を丸くする二人に構わず、アストリアは最後の言葉を投げかけた。
「時間ですね~、どうか私の世界をよろしくお願いいたします~、楽しんで下さると幸いです~」
そう言って両手を大きく広げると、政継達を光の粒が覆い始めた。
「神様~行って来るにゃー」
「神様、行ってまいります」
「楽しませてもらいますねー」
ルビィとレオが光越しにアストリアに声を掛け、里子が其れに続く。
「ありがとうございましたー、頑張って長生きしますねー」
政継も、最後にそう声を張り上げた。
光に飲まれ、あと少しでアストリアが見えなくなるという瞬間、アストリアの最後の声が。
「大丈夫です~頑張らなくても~、寿命はまだ決めてませんからね~」
と、二人に微かに聞こえて来た。
「「 は? どういう事?? 」」
またもや、気の合う夫婦の声が重なるが、そのまま光に飲み込まれてしまい、その問いに答える者はいなかった。
太く高く伸びた木々に苔むした倒木、むわっとむせ返るような緑と、土の香りが広がる深い森、その中程に50メートル四方を結界で囲まれた場所が在った。
見たことが有るような? 無いような? 草木に囲まれた静かな所だった。
もちろんアストリアが作り出した安全な場所である。
アストリアに別れを告げてから、あっという間にこの地に転移して来たのだ。
そんな中。
「「 えーっ?? 」」
またしても、二人のハモリ声が木々に木霊する。
互いが互いを見て、指を差し合い驚いているのだ。
「政継!何でそんなに若返ってるの!? 背も少し伸びてない?」
「里子!なんか若返ってるぞ!? 挙句に若い頃より痩せてないか?」
相手の言葉に「えっ!!」と自分を見下ろし、確かめるようにペタペタ手で顔や体を触る。
何故だ? どうして? と不思議がる二人に「くあっ~」と欠伸をした後、ルビィが困り顔で言う。
「ご加護にゃの、若くないと慣れない生活に苦労するからって神様が言ってたにゃ。それと父にゃんの背が伸びてるのも母にゃんが痩せてるのも、スキル(超)健康な身体の影響にゃのよ」
「なるほど」と、納得した政継は、里子に。
「ほら、俺って若いころバスケで無理し過ぎて背骨が湾曲してただろ? 健康って事はそれが治ったから少し背が伸びたんだろうな。里子もそれと同じことで……」
言葉を切ると、口を閉じ言葉に詰まった様子を見せる。
「はっきり言いなさいよ!! 私は太ってて不健康だったから痩せて健康になったって言いたいの!?」
「そうじゃなくて……、ええと……まあなんだ、ダイエットしなくても良くなったんだから……な」
少しムッとしていた里子だが、政継の意見を聞いて怒りを鎮めた。
「……そうだね、楽出来て良かったよ、体が軽くなったしね。それにしても、今私達って何歳位かな? 初めて会ったのって高校の時だから15~6歳? その頃位に見えるよ。政継カッコイイね、その服もに合ってる」
「なんだよ、照れるだろ……、でも若返ったように見えるし、こっちの世界の服にも変えてくれたんだな。お、お前も可愛いぞ……」
そう言い合いながら、顔を赤くする二人に、レオとルビィの会話が聞こえた。
「義父さまと義母さまはどうしちゃったんですか?」
「いつもあんな感じで突然イチャイチャするにゃ、気にしたら負けにゃ」
その言葉を聞きつけた二人は、スッとレオに顔を向け、諭す様に語り掛ける。
「レオくん、思い過ごしかも知れないんんだけど、父さん母さんを呼ぶときの意味合いにまだ”義”が使われている気がしてならないんだよね、どうして?」
「確かにそう感じるな、レオどうなんだ? もう一度家族会議に掛けられても可笑しくない事案だぞ、それかモフモフの刑だ。もう一度呼んでみなさい」
「えっ、そんな事はにゃいです……気のせいだと思います……」
タジタジになっているレオに、二人はニヤニヤとした顔を向けている。
「可愛いなぁ、頑張って普段使わない様にしている『にゃ』がまじってるもんね、焦ってると出るんだよね~」
「そうそう、ルビィは直すつもりは無い様だし『にゃ』を付けて話せばいいのにな」
「恥ずかしいので止めてほしいですぅ……」
レオは伏せて顔を隠してしっまった。
そんなやり取りを楽しんでいると、ルビィの声が響く。
「いい加減にするにゃ!? いくら安全な結界が張ってあるからっていってもここは森の中にゃの!! 転移したばかりなんだから暗くなる前に荷物を確認したほうがいいにゃ!?」
子猫に怒られて、シュンとする二人であった。
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