76。お仕置きにゃ
「もう一つの群生地で採取しなくちゃならなくなったな。そっちも無事かは分からないけど……」
森の奥に厳しい目を向けながら、マサはダレン達にそう告げる。
「行く気なの? もう一つはCランク以上じゃないと採取に行けない場所なんだよ? いくらあなた達が強いったって、私達が一緒だと無理じゃない?」
「そうだよ、俺達が足手まといにならないか?」
確かに、普通のFランクならば無理があるし、ギルドに報告するのが本当なのだが、マサはチラリと視線を横に向け、ニヤリと笑うと。
「心配ないさ。役者は揃ってるみたいだしな」
二人にに向かって思わせぶりな事を言う。
「!?……やっぱりこの依頼って、そういう事?」
「マサのあの顔を見れば、そうなんだろうな……」
ピンときた様子のダレン達は、とても嫌そうな顔を見せているが。
「何が有っても守るつもりだけど、念の為にこの子達と一緒に居てくれる?」
そんな二人に、リコは自分のボディバッグに入っている子猫達を差し出した。
「(やっと出番が来たにゃ)」
「(じっとしてるのも大変なんですよね)」
子猫達は少しぼやきながらも、ダレンとソフィーの肩に移動し、やる気満々の様子だ。
「よろしくね、ルビィちゃん」
「頼むな、レオ」
それぞれを肩に乗せたダレンとソフィーは、優しく子猫達を撫でながら、嬉しそうに話しかけている。
「(任せるにゃ)」
「(心配しなくて大丈夫ですよ)」
数日行動を共にして、すっかり気心が知れた様で、子猫達の強さも認識している二人。
「それじゃあ、行こう!!」
リコの合図で、四人と子猫達は森の奥に向かって移動を始めるのだった。
ダレン達の速度に合わせての移動だったが、軽い昼食休憩を挟んでも、二時間程でもう一つの群生地にたどり着く事が出来たのだが――――。
「よお、お前達も心配になって群生地を見に来たのか?」
――――群生地の向こう側には、いやらしい程ニヤケた顔のガスタルが立っていた。
「「ガスタルさん……」」
ダレンとソフィーは少し怯えている様で、それ以上言葉にならない様子。
リコと目配せし合ったマサは、あえてのんびりとした口調でガスタルに話しかけた。
「おっさん、手前の群生地が枯れている事に気が付いたのか?」
「意外だね~? オジサン、そんなタイプには見えないんだけど~」
揶揄うような二人の言葉に、ガスタルは一瞬怒りの形相を見せたが、取り繕う様にまたにやけ顔を保つと。
「……ああ、そうだ。変だと思ってこっちの様子を確認しに来たんだが、丁度いい所にきてくれた。俺だけじゃ判断ができなくてな~、ここを見てほしいんだ」
ガスタルはそう言って、自分の足元を指さした。
「俺が見てやるよ」
マサはあえて一人で動き出すと。
「お、おいっ、お前一人じゃ確認出来ねぇ!! 全員で来いって!!」
慌てて声を荒げるガスタルを見て、リコが「ぷっ」と噴出した。
「ああん? 何が可笑しい!?」
「何がって……どう見ても怪しすぎでしょう?」
「確かに。罠なのか、何か考えが有るのかってところか? 全部バレてんだよ、おっさん。あんたが群生地を枯らした犯人だろ? 俺達を誘い出す為とはいえ、卑劣な事するんだな?」
「オジサンが、ダレン達からお金をだまし取ってる事とかも、ぜ~んぶ分かってるんだからね!!」
「なっ!? このクソガキがああああっ―――」
ガスタルは言い当てられて動揺したのか、そう叫ぶや否や剣を構えてマサ達に向かって来た。
へえ、腐ってもCランクか? 思ったよりは動きが速いんだな。
マサは剣を鞘から抜いて構えながら、ゆっくり見えるガスタルの動きを目で追う。
しかし、ガスタルは剣先が交差する手前でヒョイっと体をずらし、マサの横をすり抜けて行った。
逃げる気なのか? と、視線で追いながら振り返ると、ガスタルは手にしていた何かをリコに向けて投げつけたのだが……。
――――リコは風魔法でそれを弾き返し、コントロール良くガスタルにぶつけ返すのだった。
「うわあぁぁ!?」
背中にそれを、風魔法と一緒に受けたガスタルは衝撃で地面に倒れ込むが、何が起こったか察すると、酷く慌て出した。
「な、何しやがる!! ちくしょうめ!! マズイ、このままじゃ――」
見ると、ガスタルの背中一面に赤黒い液体が付着し、飛び散った物は地面に染み込み始めている。
焦って上着を脱ごうとするガスタルだが、今度はマサの魔法で動きを封じられ、身動きが取れずに怒鳴り始めた。
「何なんだコレは!! 動けねぇ!! 何しやがったんだぁ!! 離しやがれぇぇぇ!!」
マサが口を開こうとした時、漂って来た異臭に顔をしかめた。
錆び臭さと、獣臭が混ざった独特の臭い。
魔物寄せ玉に似ていたが、それよりも強い臭いだった。
「これって、魔物の血の臭いだよね……」
「……ああ、間違い無い。このおっさん、またしても俺達を魔物に襲わせようとしたんだな」
「やばいね~。魔物は鼻が利くから、もう集まりだしたみたい。オジサンをこのまま囮にして逃げようか?」
「そうだな。俺達にしようとした事が自分に返って来ただけだし、文句は言えないよな?」
二人の会話を耳にしたガスタルは酷く怯えだし、懇願する様に声を張り上げ始めた。
「お、俺は何も知らん!! 何もやっちゃいねえんだ!! 頼む~!! 助けてくれ!!」
その姿を見下ろしながら、「まだまだお仕置きが足りないな」と思うマサだった。
「またぼく達をちょい役扱いですね!!」
「良いにゃ、主役はドンと構える物にゃ」
「この前は怒ってたのに、どうしたん……!?それ、母様秘蔵のチーズケーキじゃないですか!?」
「見つけたにゃ~。これ位は許されるはずにゃ~」ムシャムシャ
「……ぼくの分も有りますよね?」




