72。事情にゃ
「その前にこれを見てくれ」
そう言うと、マサは拾った証拠品を1つ取り出した。
「これが野営地にばら撒かれていた。取りあえず全部拾い集めたけど、全部で20個も有った」
二人の目の前にそれをかざすと、ソフィーの顔から血の気が引いたのが分かった。
ダレンも目を見開いて絶句している。
これが何か分かり、大量に使う事でどんな結果になるか理解したのだろう。
そんな二人の様子に、リコが気遣う様に目を向けながらも説明を続けた。
「これ魔物寄せの玉だよね、悪質でしょ? 野営地近くでは使用禁止されてるのに、こんな事をした奴が居るんだよ。これって犯罪だよね。これだけ一気に使ってるんだから、販売記録とかで購入者が分るかも知れないじゃない? だからギルドに報告しようと……」
リコが話している間、ソフィーの顔色は益々悪くなり、ダレンまでもが青ざめ始めた。
「二人共どうしたの? もう安全だから心配ないよ?」
リコは驚いて二人に声を掛けるが、無言で証拠品を見つめている二人。
困り果てたリコがマサに顔を向けると、大きく頷いたマサがダレン達に問いかけた。
「お前達の様子を見てたら分る。何か知ってるんだろ? 話してくれたら悪いようにはしない」
「「 !! 」」
弾かれた様に顔を上げた二人に。
「うちの可愛い従魔達は魔獣だから、魔物の状況や気配が分る。そして、それは人に対しても同じだ。会った事がある奴の気配も察知出来るんだよ」
本当は〈サーチ改〉を使った結果だったが、本当の事を言えば色々不都合な事も話さなければならなくなる。
上手く嘘を付けないマサだったが、頭をフル回転させ、何とかそう絞り出すと、『頼む誤魔化されてくれ』という気持ちを込めながら、ゆっくりダレンとソフィーの目を交互に見つめ、言葉を続ける。
「うちの従魔は断言したんだ。ガスタルがここに居たってな」
――――少しの沈黙が続いた後、ソフィーのか細い声がマサ達の耳に届いた。
「……ギルドで報告しても、出て来るのは私の名前だよ」
ダレンは項垂れたまま、「ああ、そうだな」と相槌を打った。
「え? どうして?」
このまま黙っていても、状況は変わらないと判断したのだろう。
リコの驚いた問いかけに、血の気の失った顔のダレンが答えた。
「頼まれて、魔物寄せ玉を買ったのはソフィーなんだよ……、20個だろ? 数もピッタリ同じだ」
「……一昨日リコ達と別れた後、町でガスタルさんに会ったの……。どうしても魔物寄せ玉が必要なんだけど、今買いに行けないからって、お使いを頼まれて……だから、今日の事をギルドに報告しても、疑われるのは私だと思う……」
震えながら話すソフィーの背を、ダレンが痛ましそうに擦っている
「お前らとガスタルってどういう関係なんだ? 何か有るんだろ? 全部話してくれよ」
そんなマサの質問に、また黙り込む二人を見て、リコはしびれを切らした様に立ち上がった。
「絶対助けてあげるから!! 何か困ってるんでしょ? お願いだから教えて!? 心配なんだよ!!」
見ると、リコは涙目状態。
二人もそれに気が付いたようで、驚きつつも困った様子を見せていたが、意を決したように全てを話してくれたのだった。
夢と希望を抱いて、ギルドに登録をしにやって来た二人。
その時受け付けに居たのはサラだった。
色々説明を受け、依頼の話になった時に言われたのが「皆さん、最初は冒険者の先輩からの依頼を受けるのが暗黙のルールなんですよ」と。
そうやって、依頼の手順を学んでから始めるもので、あえて人にこの事を聞いたり、教えたりするのはタブーなのだと。
そんな事をすれば機密漏洩となり、冒険者としての資質が無いという事で資格はく奪になると、しつこく念を押されたようだ。
ソフィーは「あなた達も知ってるでしょ?」と確認してきたが、曖昧に答え、先を促す。
そして、二人に依頼して来た先輩冒険者がガスタルだったそうだ。
依頼内容は、とあるお店から箱をを受け取って来てほしいというものだった。
中身については聞いても教えてくれず、二人は緊張しながらも最新の注意を払い、お店から受け取った箱をガスタルに届けたのだが。
――ガスタルが箱を開けると、入っていた壺の様な物が壊れていたという。
青ざめた二人に、ガスタルは。
「これはマズイ事になった……、お前達は大変な事をしてくれたな。この壺はとある高貴な方に頼まれていた物で、同じ物は存在しないんだ……」
そう言って見せて来たのが、大金貨1枚と書かれた鑑定書の様な紙。
二人は青ざめたそうだ。
家族4人で贅沢をしなければ、ひと月10万アスト=金貨1枚で生活できるのだ。
大金貨となればその10倍、100万アストという事になる。
しかし二人は駆け出し冒険者どころか、まだFランクのひよっこである。
どんなに頑張っても弁償など出来るわけも無い。
しかし、縮み上がっている二人に、ガスタルは優しく言ったそうだ。
「このままでは、お前達は冒険者に成れないどころか、借金を背負う事になっちまう、間違い無く借金奴隷だろうな。……しかし、中身を伝えなかった俺にも責任は有る。だから半分は俺が支払う。残り半分を俺に返してくれ」
この時ダレン達は「なんて良い人なんだろう」「自分達のせいで申し訳ない」と思いながらもガスタルに縋るしか道は無かったのだという。
「ギルドのサラには、どうしても事情を説明しなくちゃならない。俺が上手く言っておくから心配はしなくて良いぞ」
結果、50万アストの借金を抱えた二人は、依頼料を返済にあてる為、サラ経由でガスタルに支払う生活になっていった。
段々と「借金を少しでも早く返しなさい」とサラにもきつく言われ始め、時にはギルドを通さない特別な依頼を回される様になっていったそうだ。
特別な依頼とはどんなものかと聞くと、二人は首を傾げながら。
「町の外で、指定された日の指定された場所で荷物を受け取り、それをサラさんに渡す仕事」
そう二人は答えたが、荷物の中身は全く分からないそうだ。
リコは怒りに震え、マサは頭を抱えてしまった。
自分達の借金の経緯については、まったく疑っている様子が無い二人。
どうやってダレンとソフィーを助けようかと思考をフル回転させるマサであった。
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