67。手が掛かるにゃ
あの後剣術訓練を行い、疲れて泥の様に眠ってしまったダレンとソフィー。
テントの外ではマサが黙って焚火の火を見つめていた。
魔物等を警戒して、交代で夜番をする為だ。
自分達だけならば、結界付きのテントを使用するので夜番は必要無いのだが、ダレン達と一緒なので今後の事も考えて経験しておく事になったのだ。
子猫達は、マサの鞄に一緒に入って早々に眠っているので、辺りはとても静かだ。
一緒に夜番をしているリコが、焚火に薪をくべている姿を見て、マサは深いため息を付いた。
リコの勝手な行動に関して、どう説明したら自分の気持ちを分かってくれるだろうかと、思案していたのだ。
「夜番なんてした事無かったから、ワクワクしない?」
ハッとして声のした方に顔を向けると、にこやかなリコの顔が目に入った。
マサは両手で顔を擦り、その後気合を入れるように自分の頬を軽くパンパンと叩くと。
「リコ、今日の事、俺は納得出来ていないよ?」
今のうちに、お互いの考えや価値観をすり合わせておかなければ、いつか大変な事になるのでは? と思っての発言だったが。
「え? 今日の事って、さっきの剣技披露の事? あれは成功したでしょ?」
ああ、これは悪気が無いとかいう問題の前に……、全く何も考えていないんじゃないか?
脱力しそうになるが、このままにはしておけない為、かみ砕いていく事にした。
「まず、昼間。ダレン達にアイテム鞄の話したよな? あそこで内緒にするって約束してもらったのに、どうして野営地に着いた時、見ず知らずの他人が居る前でアイテムボックスからテントやテーブルを出したんだ? そのせいで反感を買っただろ? きっとあの冒険者は俺達から鞄を奪うつもりだったと思うぞ。そして、食後の剣技披露。ここまで来たら、それも良案かと俺も付き合ったが、お前はどういう意図が有って勝手な事を始めたんだ?」
マサが話始めると、段々とリコの顔が曇り始め、言い終わる頃には下を向いてしまっていた。
何も言わないリコに、再度マサは声を掛ける。
「どうして勝手な事をしたんだ?」
すると、ばっと顔を勢いよく上げたリコは。
「私達は強いよね? マサも気づいてるでしょ? ランゾさん達に鞄の事で注意された時は、私も自分の力の事何も理解してなかったし、不安もあったから目立たない方が良いんだって思ってたけど……でも、段々と魔物を倒したり、色んな冒険者と接してるうちに、自信? とはまた違うんだけど、自覚っていうのかな、マサにも分かるでしょ? この感覚が。相手との力量差がはっきり感じ取れるこの感覚!! だから私は……」
貯め込んでいた何かを吐き出す様に、りこは一気に捲し立て。
「私達は見た目が幼過ぎて侮られてしまってると思う。だったら初めから強さを見せた方が、絡まれなくて済むでしょ? 今日だってうまくいったよね? 実際、あの冒険者達何もしてこないじゃない」
最後には声を落としてそう言った。
そうか、何も考えてない訳では無く、考えが違う方に向いてしまっているんだな。
話を静かに聞いていたマサは、リコの目をじっと見つめると。
「魔物なら『やれる』っていう判断もあながち間違いじゃないのかも知れないけどさ、人間相手は違うと思うぞ? 良くも悪くも人間は考える脳味噌が有るんだ、分るか? 本当の強さを隠す事が出来るって事だよ。ランゾさんがいい例だ、あの人の事どう見える? 只者では無い感じがするって、お前も言ってただろ? じゃあ、戦ったら勝てる気はするか? 俺は正直分からないって思う。確かに、お前の言ってる事や感じてる事は俺もわかるさ。実際、俺達は強いんだよ、間違い無くな」
そこで言葉を切って、リコの反応を観察しながら、気持ちを込めて言葉を続けた。
「だけど、人の強さは力だけじゃないよ。権力、金、人脈、色々あるんだ。もしも、あそこの商人が俺達を殺そうと、その全てを使ってきたらどうなると思う? 権力を使って俺達を犯罪者に仕立て上げたり、金を使って沢山の殺し屋を雇う事も出来る。人脈を使って俺達を追い続ける事だって、何だって出来るんだぞ?」
リコは大きく目を見開き、口元をわなわなと震わせているが、マサから目を逸らしはしなかった。
今にも泣き出しそうではあったが、ここで止めてしまえば、マサの気持ちは伝わらないだろうと、心を鬼にして。
「あえて目立つ必要は無いと思わないか? 確かに小説やアニメなんかでは、成り上がりや主人公が強いのは最高に面白かったけどさ、ここは現実世界だ。厄介ごとに巻き込まれたら、逃げ回る逃亡生活だってあり得るんだよ? 皆でのんびり、自由な生活を目標にしてたはずだよな? リコのその考えは傲慢かつ、思い上がりだと俺は思う。」
その時には、無言のリコの目から大粒の涙が溢れ出していた。
顔を手で覆う様にして俯きだしたリコに、タオルを差し出し、何も言わず見守る事にしたマサ。
暫くすると、鼻をすすりながら呟く様なリコの声が聞こえて来た。
「ごめんね……小説の主人公になったような気でいたみたい。それって、一緒に居る側にしたらいい迷惑だよね……」
マサは。
「分かってくれたら、それで良いよ」
そう言ってリコに手渡していたタオルを奪うと、涙でぐちゃぐちゃの顔を、力任せにゴシゴシと擦ってやる。
「な、痛いって……、いたたっ、止め……、いった~い~!!」
リコさんや、君は全く手の掛かる奥さんだよね~。
リコが声を上げて嫌がる様を見ても、笑いながら、お仕置きとばかりに手を止めないマサであった。
お読み頂き有難うございます。ブックマーク・評価の方よろしくお願いします。
ここで皆様にお知らせとお詫びが御座います。
活動報告でも書いてありますが、筆尾の私には書き溜めたストックが全くありません。
その為自転車操業で投稿しているのですが、行き詰って参りました。
「絶対にエタりたくない!! 書き続けたい!!」という気持ちが強く、今後の事も考えまして、投稿を月・水・金の3日間に絞る事に致しました。
誠に勝手では御座いますが、ストックが溜まりましたら、また毎日投稿しますので、それまで気長に週3投稿にお付き合いいただきたいです。
なお、ブックマークなんぞして頂ければ、投稿に気が付きやすいと思われますので、宜しくお願いします。




