55。嫌な感じにゃ
(気分は)命からがら逃げ出して来た二人。
部屋に入るなり、鞄から子猫達を出すと、同時にベッドに倒れ込んだ。
「怖かった~」
リコがそう言って、クスクス笑い出すと、マサも笑いながら返す。
「酷いよな、俺を盾にして生き延びる気だったのかよ?」
「私を守って死ねるなら、本望でしょ?」
「いやいや、死ぬなら一緒だろ?」
そんな冗談を言い合いながら、ひとしきり笑い合った二人は、大きく深呼吸をして、意識を切り替えた。
「今日はあの女、休みだって言ってたよね」
「そう言ってたな、〈サーチ改〉を使いたかったが、居場所を探すのは無理そうだし、明日以降だな」
すると、リコはニンマリと笑って。
「買い物に行きたいな~。お昼ご飯も食べに出なくちゃいけないし、ついでに買い物へ行こうよ~」
何か欲しい物でも有るのか、両手を組み合わせてお願いポーズをしている。
「珍しいな、何が欲しいんだ?」
マサはベッドから体を起こして、リコを見た。
「テーブルセット!!」
待ってましたとばかりに、元気にそう答えるリコ。
「前にも言ったの覚えてる? 外でわざわざシートを広げるのは大変だし、もしもの時は手間になるって話したでしょ? その点、テーブルセットは物を乗せたまま、アイテムボックスに入れられるから買おうって」
……そう言えば、人が居たりするとテントが出せないって言って、シートを使い始めたんだったな。
その流れで、そんな事を言ってたような?
「あー、そんな話してたような気がする」
リコがジト目で睨んできた為、マサは取り繕う様に。
「昼飯の後に探してみるか」
そう言って、誤魔化し笑いを浮かべる。
うん、こういう時、買い物にケチを付けちゃいかんのよ……。
嫁の言う事に従っておいた方が平和だし、確かに間違いは無いしな。
そんな事を考えながら、うんうんと頷くのであった。
子猫達のリクエスト兼、アイテムボックス補充の為に、二人は中央広場へやって来た。
始めのうちは、少量ずつ沢山の屋台から買っていたのだが、あれやこれやと買い込んでいるうちに、ひと月も経てば、段々と決まった屋台で結構な量を買い込む様になっていた。
顔なじみになった屋台のオジサン達も、最初は「食べきれるのか?」だの「アイテム鞄に入りきるのか?」だのと心配していたが、今は慣れたもので、驚く事無く提供してくれる。
「なんだかんだと、結構な量になったけど大丈夫なのか?」
心配になって聞くと、子猫達どころか、リコまでもが「大丈夫!!」と、太鼓判を押すので、この件に関しても口出しは出来ないマサであった。
ギルドの配達依頼を受けた時に見かけた、家具屋を覗いて見ると、四人掛けと六人掛けのテーブルが丁度展示されていた。
どちらも重厚な、しっかりした造りの物で、お値段は小さい方が4万アスト、大きい方が6万アスト。
今なら椅子も付けると言われた為、リコがこっそり鑑定を掛けて。
「お買い得だね」
とご満悦な顔でマサに頷いてから。
「両方下さい」
と、勝手に購入を決めてしまった。
「使い分ければ良いんだし、有った方が何かと便利だと思うんだよね」
リコの口調は穏やかであったが、目が「何か文句ある?」と語っていた為。
はい、お任せします。決して口出しは致しません。
マサは心の中で白旗を上げながら、黙てお金の入った小袋をリコに渡すので有った。
家具屋の女将さんには「あんた達、若いのに良いアイテム鞄を持ってるんだね~」と感心されて、二人そろって。
『『 しまったっ!? 』』
と思ったが、もう後の祭りである。
愛想笑いで支払いをし、逃げるようにその場から移動したのだった。
ハワードさんには「夕方に来い」と言われていたので。
「もうそろそろ16時になるな、少し早いかも知れないけど、買取所に行ってみるか?」
町の中心にそびえる時計塔を見て、マサはリコを振り返りながら聞いた。
その時、マサの視界に映った物が有った。
「行ってみようか? 駄目なら、宿は隣だし出直せば良いしね」
マサは違う事に意識を持って行かれていた為、そう言ったリコの返事を聞き逃してしまう。
マサが振り返った時、大道りに繋がる脇道の奥に歩いて行くあの女が見えたのだ。
よりにもよって一緒に居たのが、マサの見間違いでなければ、昨日、知り合いになったあの二人だった。
どういう事だ、俺の見間違いか?
「どうしたの? 急に立ち止まって」
リコが不思議そうに聞いてきたが、マサは手でそれを制して、急いで〈サーチ改〉を展開する。
リコは、マサの視線が空中を彷徨い始めたのを見て悟ったのか、静かに見守っている。
ここが大通りだから、ここからこの道に来て……。
あった、この道の奥に――。
マサが〈サーチ改〉の地図上で見たものは、名無しの赤い点と、ダレンとソフィーの名前が記載された二つの青い点だった。
「リコ、急いで〈サーチ改〉を開いて、あそこの奥を確認してくれ!!」
マサの慌てた声に驚きつつも、何も言わずにリコも〈サーチ改〉を展開した。
「これって……? あの二人と一緒に居るのは誰なの?」
強張った顔で、リコはマサを見上げてそう言った。
「あの女だったんだ……、ダレン達とあの小道の奥に入って行ったのはあの女だったんだよ!!」
「どういう事? 間違いなくあの女だったのなら、どうして名無しなの?」
リコは益々顔を強張らせて聞いてくるが。
「……さっぱり分からん……、何か嫌な感じがするよな……」
そう言って、何も言えなくなったマサであった。
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