31。獣人さんにゃ
「誰かと思ったらマサとリコじゃないか」
突然そう言われて顔を上げると、そこにはラウネロさんの護衛をしていたセイルさんとロゼさんが居た。
「セイルさん、ロゼさん。こんなに早く会えるなんて思ってなかったです」
「お二人も昼食をこちらでされてたんですか?私達、初めてここに来たんですよ」
マサもそうだが、リコも二人に声を掛けながら後ろの獣人が気になってしまう。
「ラウネロさんの依頼の後、またこいつらと町の外に出てたんだよ。今朝戻ったばかりで、昼食がてらミーティングしてたんだ。この二人は知らないだろ? 臨時のパーティーを組むことになったワンズとアマーリエだよ」
「ワンズだ、こいつはアマーリエ。セイルやロゼと同じDランクさ」
「こんにちは、あんた達がマサとリコね。セイル達から聞いてるよ? 冒険者になる為にセイタルに来たばかりなんだって?」
そう、にこやかに話すワンズさんとアマーリエさんに、マサもリコもつい見とれてしまう。
獣人の二人は赤毛で、尖った耳が頭上に有り、モデルか? ってくらい長身で均整の取れた身体をしていた。
そんなマサ達にアマーリエさんはクスクスと笑いながら。
「私達は狼獣人族よ? 耳はとてもいいの。『獣人さんカッコいい~』だっけ? 有難う」
ヤバい……異世界ってのも聞かれたのか?
マサは慌ててリコを見るが、リコも同じように焦った顔をしていた。
そんな二人を見てワンズさんも笑いだした。
「カッコいいなんて褒めてくれて有難うよ。獣人は初めてか? 褒められる事なんてそうそうないからな、そこはハッキリ聞き取れちまったよ」
その言葉で、全部を聞かれていなかった事にほっとするが、なんだかばつの悪い思いをしてしまう。
「ごめんなさい、私がつい興奮しちゃって……」
「ジロジロと見てしまって、すみません」
二人が素直に謝ると、ワンズさんもアマーリエさんも「気にしてない」と許してくれた。
どうやらCランクの昇級試験を早く受けられるよう、効率良く点数を獲得する為に四人でパーティーを組んだらしい。
ランクアップには一人何点とかの指定が有るもんな、俺達はFランクだから一人100点だけど、Dランクは昇格に何点必要なんだろう?
あと、今朝まで町に居なかったって事は、あの噂も知らないのだろうな……。
「ちゃんと従魔登録出来たのね、良かったわ。それでも用心はしてね」
ロゼさんは相変わらず心配してくれている様で、従魔証と首輪を見てそう言ってくれた。
セイルさん達との別れ際に食器店の場所をしっかり聞き、向かうついでに町の探索をする事にした。
「時計塔の近くに食器店が有るって言ってたでしょ? だから時計塔も見に行こうよ」
リコの提案でどこからでも見える高い塔を目指す事になった。
石造りの建物だが、大通りは看板も有り、なんの店かは一目で分かる様になっている。
二人は店をチラチラ覗き込み、道行く人を観察しながら街並みを楽しんで歩いた。
「近くで見ると凄く高いね……」
目の前に迫った高い塔を見上げるリコの口は、ぽかんと開いている。
「町を囲む塀より高いんじゃないか?」
そう言って、上を向くマサも大口を開けたままだった。
しばらく眺めた後、食器店は何処だ? と周りを見回す。
「見つけた!! あの右手のお店じゃないかな?」
そう言ったリコに手を引かれる形で歩き出すと『食器・金物卸』の看板が見えた。
中に入ると縦に細長い奥行きのある店で、左右の棚に木で出来た皿やカップ等が分けて並べられ、奥に金物関係がある様だ。
「どの位買うんだ?」
そう聞くマサに、驚くリコの声が返ってくる。
「見て、安いね!! カレー皿位のが20枚で、2,000アストだって!? 手造りなのに何でこんなに安いんだろうね?」
全体的に日本の100均を思わせる値段に驚いて、店のおばさんに訳を聞いてみると、この店が卸売で有る事、スキルを持った職人が魔法を使って作るから大量に作れる為値段が安い、との事だった。
ただし、鍋等の金物は別にして、すべて1セット20枚となっているそうだ。
「じゃあ、片っ端からいくよ!?」
そう宣言したリコによって行われた買い漁りの内訳は、皿大小10セット・スープ用器大小10セット・コップ大小10セット・ピッチャー1セット・鍋大10個小10個・スプーン50本&フォーク50本。
合計金額はなんと10万アスト、金貨1枚になったのだった。
「先行投資だもん」
と、口を尖らせてリコは言う。
リコさんや、気持ちは分かるが……、買い過ぎじゃない?
マサはそう思ったが、長年生活を共にした知恵で、その手の買い物には口を出さない様にしている為、黙ってお金が入った巾着をリコに渡すのだった。
「(これでいっぱい串焼きが買えるにゃ)」
「(あのお肉が挟まったパンも買えますよね?)」
「(まだ食べてない物も有るから買ってもらうにゃね)」
「(そうですね、明日が楽しみですね)」
毛玉達がコソコソとそんな算段をしている事に、二人は全く気付いていなかった。
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