20。号泣にゃ
マサ達は少し歩行速度を緩めながら、馬車の様子に目を凝らす。
少しでも不穏な気配は無いかと周りにも気を配りながら歩いていると、何やら向こうの会話が耳に届いた。
「参ったー!!」
「身体強化使ったってこの人数じゃ無理っすよ~」
「そうそう、荷物満載過ぎて持ち上がらないわよ」
「困ったね、どうする?」
見ると数人が集まって、馬車の後ろにしゃがみ込んでいた。
まだ少し距離は離れてはいるが、五感の優れているマサ達にははっきりと聞こえたのだ。
「何かあったみたいだね?」
「馬車の下側をみんなで確認してるな?車輪か?日本なら間違い無く声を掛けてるよな……どうする?」
「う~ん……、危険な感じは無いんだよね?」
リコはレオ達にそう尋ねると、頷きながらしっかり約束を守った返事が返ってきた。
「「 にゃ~ん 」」
その顔が”約束を守る自分達エライでしょ?”とでも言いたげなドヤ顔だった為、思わず二人は噴き出してしまった。
そして声をハモらせニヤける二人。
「「 うちの子達は可愛いなぁ 」」
その声が馬車にまで届いてしまったのか、突然大きな声で話しかけられてしまった。
「おーい!! そこの君達!? 手伝ってくれないかー?」
小奇麗な恰好をした小太りの男が、両手をブンブン振ってアピールしている。
これでは気が付かなかった振りは出来ないと諦め、マサ達は馬車に近づいて行く事にした。
そこには冒険者風の胸当てと腰に剣を差した男女、小柄で痩せた男に、先ほど声を張り上げていた小太りの男が困り顔でこちらを見ていた。
念のため3m程手前で立ち止まり、いつでも対応出来るようマサが一歩前に出た体制を取る。
「どうしたんですか?」
内心は警戒していたが、なるべく穏やかな声色で声を掛けた。
すると、先ほどの小太りの男が苦笑いをしながら。
「そんなに警戒しないでくれないかね?怪しい者ではないさ。私はこの先にある町で商売を営んでいるラウネロという者だよ。隣にいる男が薬師錬金術師のコーリスで、あの二人が護衛依頼を受けてくれている冒険者のセイルとロゼ」
事情を聞くと、ラウネロさんはセイタルの町を拠点にしていて、今回は商品を仕入れ隣の町で知人のコーリスさんを乗せて帰る途中だったらしい。ところがもうすぐセイタルだという所で、車輪が道に出来た穴にはまって動けなくなったんだとか。
話を聞きながら観察すると、ラウネロさんは小太りな30代位の穏やかな話し方をする人で、コーリスさんは小柄で痩せているが優しそうな人に見える。
こちらも30代位だろうか。
冒険者の二人は、歳は20歳前後と若そうで、セイルさんはガッチリとした体格の人、ロゼさんは長い髪の綺麗な人だった。
「四人で身体強化を使って馬車を持ち上げようとしていたんだけれど、流石に重くてね……、どうだろう、手を貸してくれないかい?」
ラウネロさんが申し訳なさそうにそう言うと、残りの三人も「お願いします」と頼んで来た。
「……どうする?」
と、リコを見ると満面の笑みでうんうんと頷いている。
リコさんや……、その笑顔は何だい? またもや好奇心が溢れだしているのかい?
そういえば、昔からこういう突発的な事に参加するの好きだったよね……。
マサはため息をつくとラウネロ達に向き直る。
「いいですよ、一緒に持ち上げたらいいんですか?」
「いや~有難う、本当に助かったよ!! まだ名前を聞いていなかったね、教えてもらえるかい?」
「俺はマサです、こっちがリコ」
あれから六人で身体強化を使って試すと、すんなり馬車は持ち上がった。
行き先が同じだと言うと「お礼」代わりにラウネロさんの馬車に同乗させてもらう事になったのだった。。
御者台にコーリスさんとセイルさん、御者の後ろの座るスペースにマサ達とラウネロさん、そしてロゼさんが座る。
「恩人にこんな事を聞くのもなんだが、二人とも随分と若いみたいだけど幾つだい?」
ラウネロさんに尋ねられ、15歳だというと全員に驚かれた。
「成人してるのかい? 11~2歳位かと思ったよ」
まあ、地球でも日本人は若く見られるからな。
なんて思っていると「どこから来たの?」とコーリスさんにも質問を受ける。
そこで前もって相談して決めていた『出自ストーリー』を披露する事にした。
俺じゃなくて、リコがね。
だって、俺だと上手く誤魔化せる気がしなかったんだよ……。
内容は異世界モノでよく使われている話をつなぎ合わせたと、リコが言っていたものを採用。
二人は捨て子で血は繋がっていない事。
育ててくれたのは拾ってくれた祖父だが、どこかの貴族の元で魔導士として働いていたが何かの理由で辞職し、三人で人里離れた森の奥で生活していた事。
少し前に祖父が亡くなり、町で冒険者になろうと森を出て来たのだと説明した。
でも、限度ってあるよね……、リコさんや。
いや~参ったね。
何がって……リコが感情を込めて話したのがいけなかったのか、この人達信じちゃって……。
なんかすすり泣きやら聞こえてきてるよ!? 冒険者のセイルさんなんか号泣よ?
うわぁ、後ろめたいというか、騙してる罪悪感が半端ないわぁ……。
そんなこんなで、四人からは「何かあったら頼りなさい」という有り難いお言葉を賜る事となった……。
リコさんや、人を騙すような悪い子に育てた覚えは無いよ……父さん悲しい!! と本気で思うマサだった。
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