2。侵入者にゃ
政継が顔を上げようとした瞬間。
「おっじゃましま~す!!」
大きな声がリビングルームに響き渡る。
ビクッと驚いて、政継が顔を向けるとソファーに座る若い男が目に入った。
誰だ!? いつ入って来たんだ! ヤバい、危険だ!!
咄嗟に、ダイニングテーブルの反対側で驚き固まっている里子の方まで移動し、背に庇うと。
「どちら様ですか? 玄関のカギは閉まっていたと思うんですがどうやって入って来たんですか?」
まずは刺激しないように丁寧に話しかけながらも、相手を観察する。
歳は30歳前後か?背の中ほどに伸ばされた艶のある黒髪に、おいおい……俺から見ても爽やかイケメンじゃないか……、なんだこの男は。
そんな感想が脳裏によっぎったが、男の挙動を見逃さないよう注意を払っていると、ニコニコしながら男が話し出した。
「いやだな~お邪魔する事を事前に知らせたじゃないですか~。それと玄関からじゃなく直接ここに転移したんですよ~、そんなに驚かないでくださいよ~」
「 「 はあぁ?転移?? 」 」
同時に政継と里子の声が重なる。
長く夫婦やってるとこんな事が度々あるよなぁと、ほっこりした気持ちをグッと押し殺し、ニコニコ笑顔のイケメンを睨みつける。
「何を訳が分からない事を言ってるんだ、警察を呼ばれる前に家から出ていってくれ」
勤めて冷静に伝えるも、男は益々ニコニコ笑顔のまま。
「何か誤解されてます~、私の話も聞いてくださいよ~」
そう言うと軽く右手を払うような仕草をして見せた。
政継は体を強張らせて男の次の挙動を窺うも、男は変わらずニコニコしたまま座っているだけだ。
男から目を離さないでいると。
「えっ……何か……、なんだろう……」
里子はそう呟くと、政継の服をにぎっていた手から徐々に力を抜いていき。
「ねえ、この人の話を聞いてみようよ」
何を言い出すんだと、驚いて反論しようとした政継の肩に里子が手を置き。
「何て説明して良いか分からないんだけど、あの人が手を払った瞬間空気が変わったっていうか……あの人の雰囲気も厳かな? 神聖な? 分からないけど……不思議な感じがしない?」
そう囁かれて政継は、ハッとして里子を見た。
……確かに空気が変わった様な。
もう一度男に目を向けると、確かに何とも言い難い神聖な雰囲気が感じ取れる。
そんな政継達の様子に気が付いた男は、益々笑顔を深くして。
「あ~良かったです~落ち着て下さって~。まずは座って~私の話を聞いてくださいね~」
なんとも間の抜けた語尾を伸ばす話し方に促されて、二人は男の反対側にあるソファーに並んで腰を下ろした。
不思議だ、不信感が消えている……。
まだ信用はしていないのに、勝手に侵入して来た事を咎める気持ちが薄れている……。
政継は思考を巡らせながら、男が口を開くのを待っていた。
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