15。ご立腹にゃ
テントの周りは太い木々が立ち並び、なだらかな地形であったが倒木も多々見られる事から、人の入らない場所だと容易に想像できた。
高い木が多い為か雑草は短く、苔で足元がフカフカしている。
そんな森の結界の中にマサ達はいた。
「取りあえずあの太い木の幹を的にしてみようか」
「そうだね、どうなるか分かんないから始めは皆一緒でいい?」
結界はドーム型になっていたが、その端近くで魔法の練習を行う事にした。
もし魔物が出たなら(向こう側からは見えないらしい)結界越しに、安全に観察出来るというのが理由である。
「リコからやってみるか?」
「う~ん……マサからやってみてくれない? 私は次で宜しくお願いします」
珍しく尻込みするリコに笑ってしまったが、まあ分からないでもないと思う。
理解出来ていても実践は別物だからだ。
「じゃあ、土系で行くぞ」
そう伝えて、結界の向こう5メートル程離れた幹に手の平を向ける。
木に土で出来た硬い弾丸が勢い良く飛んでいくイメージだ。
その瞬間かざした手の平から体の中の何かがスッと抜けていくのが解り、キューンと甲高い音を響かせながら飛んで行く。
途端に狙っていた木の幹が、ズバーンと大きな音を立ててはじけ飛んだ。
「「 !? 」」
幹の真ん中に大きな風穴が開いているのを見て、リコが呆れた声を出す。
「マサってばどんだけ魔力を込めたのさ、やりすぎでしょ」
「いや、違うって! 硬い弾丸が勢いよく飛んでく事をイメージしただけなんだって!!」
「父様、最後にどんな状態になるかも考えましたか?そうでなければ不十分な為『コンシェルジュ』も忖度出来なかったのでは無いかと思います。使い慣れてくればそこまで想像しなくても、思い通りの威力に成るんでしょうけどね」
レオの分析に納得したマサは、もう一度今度は隣の木に狙いを定めた。
ピストルの弾丸が、木に当たり深くめり込む様子を想像して手をかざす。
すると今度はバンッという破裂音がして、ドシュッと木にめり込む音が響く。
「おーっ、想像した通りになった、凄いなぁ。有難うレオ、お前のおかげだ」
リコの肩に乗っていたレオを撫でてやると、嬉しそうな顔で笑う。
その様子をみてやる気になったリコは。
「よーし、次は私ね!! 風魔法でいってみよう!!」
と言って前に出る。
「風のカッターがあの木を斜めに切り倒す事を想像するからね」
と説明をして手をかざす。
すぐさまビューッと風切り音がして、狙っていた木が揺れたかと思うと、ズザーッっと大きな音を立てて斜めに切れた所から滑り落ちた。
大きな音と振動を響かせながら、大木は倒れていたのだった。
「やったー!? 凄くない? 魔法が使えたよ!!」
「ああ、凄いな!! ここまで出来るんだな。それじゃ二手に分かれて練習をするか? 何かあったら声を掛けろよ?」
マサはルビィを、リコはレオを肩に乗せた状態で、ギリギリお互いが目視できる範囲まで離れると、後は辺りが薄暗くなるまで夢中になって練習を行ったのだった。
「信じられにゃい!! お腹が減ったって言ってるのに 『もう少し、後これだけ』 って何度も我慢させられたにゃ!?」
「ぼくもですよー!! もう止めましょう、ご飯が食べたいですって言っても 『もうちょっと、今いい所なの』 て言って止めてくれなかったんですよ!?」
子猫達はとてもご立腹であった。
「悪い悪い、段々と思い通りになっていくから楽しくてさぁ……」
「ごめんね!でも本当に使いこなせて来てるのが分かって楽しくて……」
言い訳をしようと口を開く二人だったが。
「お腹が減って死にそうにゃー!?」
「ぼく達が餓死してもいいんですか!?」
と叫ばれ「「 飼い主失格にゃ(です)」」とまで言われてしまい、酷く落ち込む事となった。
子猫達の機嫌を戻すために、催促されるがまま色々な料理を作るが、それを見事に完食していく様子を見て。
いくら『(超)健康な身体 』という加護が有って、体を壊す心配が無いとはいえ……この量だぞ?
と、さすがに心配にはなったが止める事は出来なかった。
食べ物の恨みは恐ろしい?という事を身をもって知る出来事であった。
のちに『毛玉ご立腹事件』と陰でマサとリコは呼ぶようになる。
お腹をポンポコに膨らませたルビィとレオが、満足げに毛繕いを始めたのを横目に、二人は練習の成果を話し合った。
段々と、細かく想像し無くても色んな威力で、思いつく限りの攻撃魔法が使えた事。
思った所に、距離を気にする事無く魔法を飛ばせた事。
慣れてくると確かに凄い加護なのだと実感できた事など、一通り話した後。
「そういえばアレ見えた?」
リコが思い出したように聞いてきた。
「アレって、灰色狼か?」
マサは歩き回っていた大きな狼を思い出す。
「そうそう、一匹だけだったけどウロウロしてたね。群れだとⅭランクの魔物なんでしょ?」
「結構な音を立てたから偵察に来たのかもな」
「今日の感じだと魔法で行けそうだけど、群れで来られたら厄介だよね」
そう心配そうに話すリコ。
「そうだ、アイテムボックスに剣も入っていたろ? 剣の練習もしておいた方がいいだろうな」
「剣か……出来るかなぁ~」
そんな会話を続けていると、子猫達が眠そうに二人の膝の上に登りスリスリと頭を擦り付けてきた。
「「 もう眠いにゃ(です) 」」
余りにも可愛らしい行動にメロメロの二人は、話もそこそこにベッドに潜り込む事となったのである。
「「 可愛いなぁ~ 」」
この夫婦に危機感はないらしい。
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