26。震えるにゃ
怒れるリコの様子を観察しながらも、隣の会話にマサ自体もムカムカしていた。
この女共、リコの事をブスって言ったな!!
今はこんなに怖いけど、めちゃくちゃ可愛いだろうが!!
っていうか、お前らどの面下げてリコの事ブスだなんて言ってんだよ、鏡をしっかり見ろよな!!
苛ついているマサの横には、これまた違う意味で怒る毛玉が2つあった。
「(なんでわざわざ隣に来るんですかね!! 美味しいご飯がこの臭いで台無しじゃないですか!!)」
「(そうにゃよね!! 特にあたちを触ろうとしたこの女が一番臭いにゃよ!! どっか行っちゃえにゃ!!)」
器に顔を突っ込みながら、「フーフー」唸る姿は、ある意味可愛いものである。
そして、リコ本人は一見にこやかな笑顔をみせている。
時折聞こえる、感じの悪い笑い声と視線を物ともせずに。
それだけに、マサはリコが何を始めるつもりなのか、不安が募ってしまう。
そんな時、宿の入口を施錠したらしいブリジットさんが食堂に入ってきた。
そういえば、特別に宿泊出来るんだと喜んでいたから、夕ご飯を食べに来たんだろうな。
マサがそんな事を何となく考えていると、リコが立ち上がってブリジットさんを呼んだのだ。
「ブリジットさん、一緒に食べましょうよ」
「ああ、良いのかい? ご一緒しても」
「良いですよ〜。お聞きしたい事も有ったので、ぜひ座ってほしいです」
二人のやり取りが聞こえている隣の三人組が、一瞬嫌な顔をしたのをマサは見逃さなかった。
初めは当たり障りのない話をしていたリコだったが、突然思い出したように声を上げた。
「そういえば今日、凄く驚いた事が有ったんですよ。その事でご意見を聞きたくて」
なんとも勿体ぶった言い回しに、マサが『来た!!』と思ったのは間違いでは無かった。
リコの表情が詐欺師モードになっている。
話を振られたブリジットさんは、興味を引かれたようだ。
「何だい? アタシで良ければ何でも聞いておくれよ」
「実は、Eランクのくせに、この子達に『きゃーかわいい』とか何とか言いながら勝手に触ろうとした女がいたんですよ?」
「それは本当かい? 随分恥知らずな冒険者だね」
「やっぱりそう思います? 私達、見習いの子供達に知り合いがいるんですが、その子達は何も言わなくても手を出したりしなかったんですよ。それが当たり前だって低ランクでも分かっている事なのに、まさかEランクにそれをやられるとは思って無くて」
「どこのどいつだい? 聞いてるこっちが恥ずかしくなるね」
自分の事だと分かっている隣の女は顔を真赤にしてうつむいている。
残りの二人は一瞬唖然としていたが、うつむく女に目を向けたようだ。
恥ずかしい行為だって、あの二人の方は分かっているのか。
「でも、そういう事をやっても可笑しく無い女なんですよね〜。だって、嫌がってる男性の部屋に、勝手に入ったりするくらいですから」
「なんだいその女は。随分尻軽っぽい感じだね。男好きなのかい? まいったね、そういう女がいるから女性冒険者が軽く見られるんだよ」
気が付くと、ブリジットさんは結構お冠だ。
日頃から、女冒険者というだけで嫌な思いをした事が有ったのだろう。
リコの声がだんだん大きくなっていたため(多分わざとだと思われる)、周りの冒険者達にも聞こえているようだ。
他のテーブルにいる女性は自分じゃないというジェスチャーをしたり、ブリジットさんの発言に大きく頷く者もいる。
そして、当の本人は身体を小刻みに震わせてこちらを睨みつけている始末だ。
あとの二人は周りの雰囲気に気が付き、無言で女を白い目を向けている。
おいおい、お前たちはグルになってリコを虐めようとしてたじゃないか?
それなのに、自分たちは無関係ですみたいな態度を取るなよな!!
マサの思いがリコに通じたのか、はたまた初めから許す気が無かったのか。
「その女って、他に二人の女とパーティーを組んでるみたいなんですけどね? 難癖というか、いじめというか、わざわざ隣のテーブルに座って私のことをブスだなんだと聞こえよがしに言って来るんですよね〜。冒険者なんだから正々堂々と絡んで来れば良いのに、弱い輩の遠吠えみたいで嫌になっちゃう。こういう場合はどう対処したら良いのかお聞きしたかったんですよ」
ブリジットさんは気が付かないようだったが、周りの冒険者達は三人の存在に気が付いたようだった。
女三人のパーティーが他に居ないのだからそうなるだろう。
「そうだねぇ、いやらしいやり方をする女ってのは結構いるんだよね。私ならそういう女にはガツンと痛い目をみせてやるんだけど、リコはそいつに勝てそうなのかい?」
「え? 力でですか? それは間違いなく勝てますよ。3対1でも負けませんね」
にっこり余裕の発言をしたリコ。
瞬間、隣の女は黙っていられなくなったようで。
「なんなのよアンタ!? ちょっと可愛い男と一緒にいるからって、ブッサイクな女が好き勝手言うんじゃないよ!!」
みんなが一斉に女に目を向けた。
自分から白状するなんて、馬鹿な女だ。
そう思って何気にリコを見ると、口の端がニヤァっとしている。
リ、リコさん? どこまで計算して話を持っていったんですか?
さすがですが、ちょっと怖いですよ?
密かに身体を震わせるマサであった。
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