23。心臓がバクバクにゃ
「二人ですよ? 他にはこの従魔達しか居ません」
ルビィとレオを見せながら、リコが元気に答えてしまう。
「二人で10匹も……。倒し方は一撃か? 羽も綺麗でさほど折れていない。これは長く転がる前に倒して……唾も吐かれた形跡も無しか」
ホーブアを確認しながらブツブツ呟いている。
「全て買取で良いのか? これなら羽も買取に出せるからいい金額になるな」
「羽? 肉だけじゃないの?」
「お前ら知らなかったのか? ホーブアは肉より羽で査定額が上下するんだぞ? 肉はその副産物だ」
モリモリマッチョのオジサンの名前はビズートさん。
そのビズートさんの説明によると、羽は小さくて軽いらしく、高級布団や高級枕に使われたり、寒い地方の防寒具にも重宝されるそうだ。
羽毛布団とかダウンジャケットみたいなものだろう。
魔物自体は唾を飛ばしてくるだけで弱いのだが、その唾が異様に臭く、洗っても数日取れないという。
敵を認識したらすぐ威嚇の転がりが始まる為、中々状態が良い羽が入手しずらいのだとか。
挙句にEランクが主に受注して行く為、持ち込まれる物はズタボロ状態。
だから肉が安く市場に出回り、この町の特産扱いになっているっていうのが実情だそうだ。
そして最後にビズートさんが付け足した言葉が。
「二人組ならどんなに上手く狩をしても、せいぜいこの半分の量なんだが、狩る秘訣でも有るのか?」
やっぱりか~。
まだ沢山有るなんて言いずらくなってしまった。
何とか誤魔化し、肉の半分は返して下さいとお願いすると、明日の朝の受け取りとなった。
「ふつうのEランクってのが分かんないよね? その都度考えながら卸すのって難しいよ」
「確かにそうなんだよな。自分達で解体でも出来れば誤魔化しもきくけど、解体は流石に嫌だしなぁ」
買取所を出て、二人がぼやきながら歩いていると、宿の入り口が開き、叫び声と共に人が外に飛んで来た。
そして、呆然と立ち止まった二人の耳に聞こえて来た女性の怒号。
「誰が入って良いと言ったぁ!! 衛兵の詰め所に突き出されたくなければさっさと消えろ!! そして2度とここには近づくな!!」
姿を現したのは、宿の受付の手伝いに来たという女性だった。
女性にしては大柄だが、綺麗な金髪をポニーテールに結んでいる。
「いきなり何をするんですか!? こんな事をしてただで済むと思っているんですか!?」
外に放り出された男は、道端に座り込んだ状態で声を上げるが恐怖で震えているようだ。
「アタシは言ったはずだ!! ここはEランクとFランクの冒険者、もしくはギルドの職員しか入る事が出来ないと!! これは冒険者ギルドの決まり事だ!! それを破る者は衛兵並びに冒険者にて即座に拘束出来る事になっている!!」
仁王立ちで怒声を上げる姿は、正直言って『カッコイイ』の一言に尽きる。
朝見かけた時も思ったが、彼女は間違い無く冒険者だろう。
「私はお尋ねしたい事があっただけです!! 確認の為に入らせてほしいと言っただけじゃないですか!!」
「だから何度も言っているだろう? 黒髪の少年なんぞ知らないと。それでも無理やり押し入ろうとした!! そもそも、何で確認の為にアンタを中に入れてやらなければならないんだ?」
「ここに居る事は分かっているんです!! 会って話をしたいだけなんですよ。隠さないで下さい!!」
二人のやり取りを聞いて、マサの背中に冷たい物が走った。
黒髪の少年?
それって俺の事じゃないよね……。
隣に居たリコも状況を察したようで、念話で話しかけて来た。
⦅もしもし、マサ? あれってお嬢様関係っぽくない? 見るからに商人風なおっさんだし⦆
⦅ここに居たら俺達の事バレてマズイかな?⦆
⦅大丈夫じゃない? 髪色も違うし―――あっこっち見たけど気付いてないみたい⦆
この騒ぎに、道行く人が何事かと立ち止まりだした。
そして、その中から聞こえたささやきをマサは聞き逃さなかった。
「ねえ、あれってベスラン商会の店員じゃない?」
男も注目を集めている事に気付いたようで、気まずそうに顔を伏せ始めた。
「さっさと消えろ!!」
そんな中、冒険者のお姉さんが言い放った言葉で、尻尾を巻くように男は逃げて行き、騒動は終わりとなった。
冒険者のお姉さんが中に入った後、マサ達も宿に入ったのだが。
「聞こえてただろ? 違う人物を探していたみたいだよ?」
「そうですね……。取りあえず安心しました」
「でもロロイ、気を付けないと……」
またしても深刻そうな顔で、ルルイさんとロロイさんが冒険者のお姉さんと話していた。
マサに達に気が付くと、慌ててルルイさんが駆け寄って来て。
「ねえ、マサさん。ベスラン商会って知ってる?」
そう聞いて来たルルイさんの顔は真っ青になっている。
マサはリコと顔を見合わせ『やっぱりか』と、二人同時に深いため息を付いたのだった。
「知ってますけど……」
そう言って、ルルイさんの後ろに目を向けたマサは、ロロイさんが今にも倒れそうなほど震えている事に気が付いた。
心配して声を掛けようとした時、リコが場にそぐわない程の大きな声を上げる。
「分かった~!?」
いきなりの事でビクリとしてしまったマサ。
リコさんや……。
俺の小さな心臓が爆発したらどうするんだよ……。
バクバクする胸に手をあてて、驚いてリコを見る事しか出来ないマサであった。
新作「なぜか異世界に落ちたので『八重子さん』と一緒にまったり開拓生活しちゃいます」を投稿しています。読んで頂けると嬉しいです。
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