広井夏樹の帰還(17)
ここで時計の針は少し戻る。
『それで舞先生、君は夏樹ちゃんにもうすぐ負ける。
君は気づいていないだろうが、もうすぐ夫になる宏さんが痴漢容疑で現在、警察署で事情を聞かれている。タイミング的に間違いなく夏樹ちゃんの仕業だ。』
佐藤ゆりあの言葉に舞は頭が真っ白になった。
(なぜ、宏が!どうして?)
ゆりあが続けて何か言っているが、耳には入ってこない。目の前のパソコンを操作する。
(確かこうして、この暗号化を・・・)
なんとか警察のクラウドに侵入する。そこで調書を発見する。
(あった、『被疑者:高野宏』、『被害者:木村由香』!)
慌ててスマホを操作する。連絡先に保存したままだった。4年振りに通話ボタンを押す。
「もしもし、木村さん?私、高野舞。覚えている?」
『本当に舞先生から連絡があるんですね。先生もわかっていると思うので、言いますけど、私被害届を取り下げられません。理由はわかりますよね?そちらに電話をかけてください』
「待っ・・・!」
通話が切られる。
(どうすれば?夏樹さんに頼むのは論外。あ!ゆりあさんなら圧力とか揉み消しとか!)
そう思って、再びゆりあに電話をする。
『はい、佐藤です』
「お願いします。助けてください!」
ゆりあは少しため息をつき、すぐに指示を出した。
『学校内の私の部屋にミニ冷蔵庫があるのは知っているね?そこに『シーズン3』のウイルスである、『te092、ウイルス』のサンプルがある。それを使って上手い事やってみなさい』
確かに交渉材料に使えると舞は確信する。
とすれば、有効な手立てを考え実行する。ちょうどドローンチームと連絡用の低学年の子が戻って来たところだった。
ゆりあさんの『シーズン3』なんてできない。けれども、これであの人は助かるはずだと信じて。




