広井夏樹の帰還(14)
「4年前と同じく、ゆりあちゃんの負けね。ふふ」
妖艶にマリが笑う。一瞬の間。そして、ゆりあがすぐに口を開いた。
「マリちゃん、酷いなぁ。今回は私、何もしてない――とは言わないけれど、夏樹ちゃんと対立も勝負もしていないよ?」
「じゃあ、舞先生が完敗したら、私のお願いをひとつ聞いてくれる?」
「ふふ……怖いな。何を頼まれるのか想像もつかないよ」
「どうせ、すぐに舞先生から電話があるでしょうし」
マリがそう言ったタイミングで、まるで予告されていたかのように、ゆりあのスマホが震えた。
画面には「高野舞」の名前。
「はい、佐藤です」
『お願いします。助けてください!』
悲痛な叫びに似た声。
ゆりあはしばし沈黙し、それから短く指示を出す。
その指示を聞いて、電話の向こうの舞が慌てた様子で通話を切る。
モニターには、何かに取り乱した舞の姿が映し出されていた。慌ててどこかに駆け出していく。
「舞先生も、そしてゆりあちゃんも……夏樹ちゃんの“恐ろしさ”を、ちゃんと思い知ればいいわ」
つぶやくようにマリが言った。
「マリちゃん、いつ私を裏切ったの?」
前文部科学大臣、現職の衆院議員でもある佐藤ゆりあ。身長135cm。その見た目通りに不安を取り繕いもせずに表に出した。まるで見た目と同じく子どものように。
それだけ、付き合いの長いマリの裏切りはショックでもあった。
「裏切ってなんかいないよ?そもそも今回の件、わたしはゆりあちゃんの味方だなんて言ってない。もうすぐ『夏樹ちゃん対舞先生』の最終局面よ。まずはそれを見届けましょう」
モニターには、学校からスマホで電話をかける舞とデータセンターで電話がかかって来た夏樹、両方が映し出されていた。




