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オムツと私たち  作者: 062
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水田マリ(2)

「ゆりあちゃんは死にかけたこと、ある?」


・・・そういう問いかけで自分の過去の話を始めました。




記憶のある4歳ぐらいから、父親はいませんでした。自分は母親と2人で地方都市の学生用のワンルームのアパートに住んでいました。そして母親は少しづつ、でも確実に壊れていきました。最初は自分に暴言を吐く程度でしたが、自分も学校で学んだことで言い返すようになりました。すると今度は暴力も加わります、当時の自分は小学3年生でどうしようもありませんでした。


どうしてこうなったか、自分でもわかりません。でも、自分の家庭環境が普通でない事は理解していました。


あれは1月の終わりでした。学校から帰り、給食費の引き落としができていない旨を書かれたプリントと給食費を入れる封筒を母親に出したところ、酷く怒りだして自分をベランダに出して鍵を閉めました。冬休み明けにも、他の子のお年玉の金額の話題を話していたら同じことをされたので、その時も深く考えずに「またか」と思っていました。ところが今までは一晩で中に入れてくれたのに、今回は3日経っても鍵が開くことはありませんでした。


自分も普通の小学生ではないのでしょう、何度もされたことだったので、2Lの水のペットボトルと毛布を準備していて、それで何とか生きていました。


水を飲めば当然ながら出てくるものがあります。ベランダですので当然トイレなんてありません。雨水用の排水口に仕方なくしていた時、隣に住んでいた大学生がひょっこりと顔を出してこちらをのぞいていました。


「お、悪いトイレ中だったか!」


そう言って、しばらくすると水のペットボトルを自分に差し出しました。


「もう3日だろ、飲めよ」


トイレをのぞかれたことや閉め出されたことを知っていること色々なことが頭をグルグルと駆けまわって何も言えず口をパクパクとさせるだけでした。彼はそんな自分を安心させるようにニコリと笑うと。


「コレも食え、パチンコの景品で悪いけどな。ゴミはこの隙間からこっちに、お前のかーちゃんにバレてしばかれるのもイヤだろう?」


自分はコクコクとうなづきました。貰ったのはチョコレートでした。食べ物を口にするのは3日振りで泣く程美味しかったです。


その日の夕方も食べ物を持ってきてくれたようですが、受け取れませんでした。低体温症と栄養失調で立つこともできない状態だったのです。そんな自分を見て彼はベランダを区切ってあるプラスチックの板を破ってこちらへやって来ます。自分は立つことも出来なかったのでおもらしを繰り返して酷い状態でした。すると彼は自分の服を全て脱がせました。


「ごめんな、恥ずかしいだろうけど少し我慢してくれ」


そう言って、自分に彼の服を着せてくれます。そして下半身にはオムツをつけました。


「中東の国の難民の子供でも、低体温症で亡くなる事があるんだ。理由はオムツをつけていなかったからだ。今のお前もオムツが必要だよ。もっとも、聞こえちゃいないだろうけどな」


聞こえていますし、今でも覚えています。オムツをつけ終わるとズボンはないのかバスタオルを巻き付け、さらに毛布も彼の部屋のものに交換してくれました。


「もう少しの我慢だからな!がんばれよ」


叫ぶように彼が言ったかと思うと、彼の部屋のベランダに戻り、タバコに火をつけました。1/3程吸ったところでタバコを部屋のカーテンにあてました。当然のように燃え始めるカーテンを横目に彼がスマホで電話をかけています。


「もしもし、火事です。ベランダでタバコを吸っていたらカーテンに燃え移りました!」


もくもくと立ち登る煙と炎に今度こそ自分は気を失いました。その間に駆けつけた消防隊が偶然、自分を発見し救助されたそうです。




気づくと病院でした。TVドラマで見るようなモニターやチューブが全て自分に伸びています。そこで自分が心肺停止だったこと、母親が保護責任者遺棄の容疑で逮捕されたことを知りました。ありきたりな小火(ボヤ)から虐待事件に発覚し、報道されていましたがTVで見る母親や自分を現実だと思えない自分もいました。


しばらく入院した後、自分は母親の妹である叔母さんに引き取られることになりました。叔母さんは交通事故で旦那さんと娘さんを一度に失った人です。そんな経験からか自分(わたし)に甘いです。長い低体温状態にあったので、自分の排尿機能は戻る事はないはずですが、叔母さんはそんなこと気にもしてない様子でした。


「今のお前もオムツが必要だよ」


彼の言葉が、声が蘇ります。あのベランダ以来、自分は彼とは会っていません。助けてくれたお礼も言えないままです。


「今も自分はオムツが必要です」


自分は彼に会ったらそう言ってみたいのです。






「なんだ、過去のトラウマとか病気の体験談かと思ったら、恋バナじゃない!」


ゆりあちゃんが自分の昔話を聞いて言います。確かにそうかもしれません。動揺のあまり言葉がうまく返せません。


「トラウマで病気で恋バナですよ」


特別な感情をまとめて『恋』というなら、彼に抱いた感情は間違いなく恋でしょう。


そして、目の前で小学生に見えるオムツ姿のかわいい女の子に抱いているこの感情も。


それを頭の良い彼女に悟られないように、言ってあげます。



「さて、そろそろ限界では?西田先生が痛み止めと言って渡したあの薬、実は利尿剤なんですよ」


データ破損のためこの後はだいぶ後に更新かもです。

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