広井夏樹の帰還(11)
東都大学医学部病院。特別室
「つまらないな。あっという間に終わってしまった」
モニターには三島咲が縛られようとしているところが映し出されている。心底残念そうに佐藤ゆりあが言った。
「ところでさっき気にしていた、ウイルスの件だけど、やっぱり3日では無理だったみたい。ロシアやお隣の大国、世界の警・・・じゃない、ど、同盟国でもね。最低でも1ヶ月は欲しいみたいよ」
妊娠中で入院中の身にも関わらず、ゆりあの疑問に答えるのは小田マリ。
「やっぱり、舞先生では夏樹ちゃんの相手は荷が勝ちすぎていたか。舞先生にウイルスのサンプルでも渡すかね?少しは時間稼ぎになるだろう。もう15分で決着がついてしまう!」
珍しくゆりあが焦ったように言う。
そして、その焦りでマリは気づいてしまう。ゆりあの異変に。
「そこまで焦るって事は・・・もう、長くないのね?」
「ああ、『持って1年』と言われたよ」
なんでもない事のようにゆりあは言った。
「だから、夏樹ちゃんには悪いけど、勝負の場に戻ってもらった。『原石』に価値はない。キチンと磨かれてこそ輝くものだろう?」
「まるで母親ね」
「ははは、そうかもしれない。『母性』に近いものは感じているよ。そして、夏樹ちゃんには私亡き後の後継者になってもらうつもりだよ」
長野県某市役所
「高野宏さんですね?長野県警の者です」
冴えない中年に見える男はそう言って警察手帳を見せる。高野宏は少し驚いたように答えた。
「はい。何か?」
「この女性について被害届が出ていまして、高野さん側の主張も聞こうと伺った訳です」
「なるほど、ちょうど今日は半休の予定なので、お昼から署に伺う。で、どうですか?」
「助かります。それでお願いします」
この時、宏は我が身に降りかかった不幸に気がついていなかった。




