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オムツと私たち  作者: 062


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広井夏樹の帰還(10)

夏樹先輩。あなたの好きな「勝負」の時間ですよ。


そうつぶやいて、腕につけたモバイルバッテリーの電源を入れました。これで触れた瞬間、モバイルバッテリーの容量すべてを使った電気ショックが流れ、行動不能になるはずです。

加えて──


「『テンペスト』三島咲、スーパーモード起動」


どうせ勝負は短期決戦です。連戦の夏樹先輩にとって、長期戦はあまりにも不利。ならば私が選ぶべきなのは、たった15秒のこの時間。夏樹先輩の想定を超えるパフォーマンスを見せられる今しかありません。

スーパーモードが発動し、皮膚感覚が急激に鋭くなります。ほんの少し動いただけで、服と肌の擦れる感触が全身を走り、ゾワリとした嫌悪感が湧き上がりました。──なるほど。だから、夏樹先輩は裸だったのですね。


私はフルーレ用の剣で、試着室のカーテンを静かに開けました。

その瞬間、左側からごく小さな風切り音が聞こえました。スーパーモードでなければ気づけなかったはずです。

見れば、天井からワイヤーで吊された消火器が、振り子のようにこちらへ向かってきていました。店舗のポップを吊るすためのワイヤーを転用した仕掛けですね。狙いは──頭部。


私は即座に後ろへと下がりました。しかし、今度は反対側からも同じように振り子が迫ってきます。

さらに下がったその瞬間、視界がぐらりと天井へ向き、肺から空気が押し出されました。

足が滑って、後ろ向きに倒れていたのです。

それに気づいたのは、ほんの数秒後のことでした。


「──チェックメイト」


眉間に、墜落したドローンの発射口が押し当てられています。視線を上げると、そこには夏樹先輩が立っていました。


「服を着ているのですね」

「あはは、最初のセリフがそれ?ここはファストファッション店だからね。売るほどあるよ。とりあえず物騒なものは手離して」


私は剣を手放します。夏樹先輩はそれを蹴って、手の届く範囲から離しました。モバイルバッテリーと繋がったケーブルは千切れています。その間も夏樹先輩は頭にドローンの銃口を向けています。


「フェイシングのクセだね。しゃがむか横に避ければ良かったのに」

「わかっていて、ここに潤滑油を塗ったのでしょう?」


夏樹先輩は笑うのみで答えてくれません。


「事態が終わるまで、手足は縛らせてもらうよ。まずはこれで足を縛って」


そう言って結束バンドを私に渡しました。


「親指同士を縛って」


言われた通りにしながら、話かけます。この段階ならまだ、挽回可能だと思ったのです。


「横に避ければまだ戦闘中だったでしょうか?」

「私がどこから出て来たかぐらい見てたよね?隣の試着室にいたの。横に避ければ私の真正面だよ。そしたらこれを撃つだけ」

「私、死にますよ?」


狙撃用ドローンは鉄球を90m/sで飛ばします。肺でも頭蓋骨でも貫通するでしょう。


「ここは戦場でしょ?死体ぐらいあって当然だよ。人を殺すのは初めてじゃないし」


ゾッと、身体中を恐怖が駆け巡ります。


『倒そう』とした私と『殺そう』とした先輩。


勝負の行方なんて最初から決まっていたのかも知れません。


「おしゃべりはここまで。手を後ろに」


手を後ろにするとこちらも親指同士を結束バンドで縛られました。


その後、スカートのポケットからスマホを取り出して、電話をしています。


「こっちは終わったよ。残りは?」


相手の声は聞こえません。


「そう。じゃあ脅威は舞先生だけだね。先生の相手はスマホで充分。あ、これ前も言ったか?」


そう言って1人で笑っていました。


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