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オムツと私たち  作者: 062


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広井夏樹の帰還(9)

『本部から応答がありません!どうしますか?』「ドローンは全機落とされたのでしょ? じゃあ戻っていいわ。連絡要員の低学年の子もお願いね」


どうやって戦いながら、本部を沈黙させたのでしょう?──相変わらず、夏樹先輩は怪物です。


私は静かに階段を上がり、2階の中央へ向かいます。先程、ドローンとの交戦があった場所。100円ショップは見るも無惨に荒れていました。商品は散乱し、ガラスが割れ、棚が倒れている。完全に戦場です。


(……血痕? そうか。夏樹先輩は、裸でしたね)


ガラスの破片ににじんだ血が、点々と隣のファストファッション店へと続いています。


(罠か? あるいは本当に──)


どちらでも構いません。この先に、夏樹先輩がいるのは確実です。


舞先生の話が本当なら、広井夏樹先輩は4年前、小学5年生の時に、当時文部科学大臣でうちの学校の前理事長だった佐藤ゆりあ大臣と、現理事長の小田マリさんを倒したそうです。しかも、その最中に佐藤大臣から23億円を騙し取り、そのお金で傭兵を雇い、大臣が企んでいたウイルステロを事前に阻止したのだと。──とても信じられません。パンデミックを未然に防ぎ、億単位の資金を動かしておきながら、先輩の願いは『普通に生活したい』だったそうです。


そんな夏樹先輩に、私は勝たなければいけない。負けたら──なんて考えたくありません。今は学園の所有する寮から通えていますが、実家は酷いものでした。父は働かず、酒を飲んでは母を殴っていました。あの父から離れて暮らせているのは、学園のおかげです。

優秀な証として、夏樹先輩に勝つ。初めて剣を握ったのは、学園に来てからでした。あの人から母を守れる力が欲しかった。

始めてから2年で、ジュニアの日本代表に選ばれました。周りの人は「凄い」と褒めてくれますが、夏樹先輩は──怪物です。


2年と少し前、一緒に授業を受けたことがあります。確か「金融入門」みたいな選択教科を、舞先生が課外でやってくれていた時でした。


「……ドル円が144円を超えた時点で、日銀の介入は“ない”と思います。少なくとも建前上は」『でもそれ、逆張りすぎない? 日銀は建前よりも“空気”で動くこと、あるでしょ。黒田バズーカのときも、理屈じゃ読めなかったし』「空気を読むなら、市場心理を読みます。CFTCのポジションデータ、見ました?」『ショート比率、確かに高かった。でもね、私が注目したのはもっと前の段階。雇用統計の“サプライズ”が出た時点で、相場のムードが変わった。ニュースじゃなく、“ムード”がね』「感情論ですね。でもそのムードに乗っかってロングした人、雇用統計から3日後には焼かれてますよ。トレンドは騙せても、ファンダメンタルズは誤魔化せません」『その冷たさ、嫌いじゃないよ。でもね、経済は数字だけで動いてない。人が“恐怖”したとき、市場は理屈じゃなく暴れるんだから』


先輩は“感情”を優先させる。私は“データ”を読む。

──それでも、結果を出したのは先輩でした。

そんなことを思い出しながら、血痕を辿ります。それは試着室のひとつへと、吸い込まれるように伸びていました。


ロングかショートか。嘘か真実か。勝つか、負けるか。


──おかえりなさい、夏樹先輩。

あなたの好きな「勝負」の時間ですよ。


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