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オムツと私たち  作者: 062
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水田マリ(1)

時系列的に「ゆりあ(3)」の直後。

どうしてこうなったか、自分でもわからない。


まだ短い自分の人生でそう思う事が何度もありました。今だってそうです、修学旅行の最後の夜、クラスも違う佐藤さんと同じ部屋で寝る事になりました。


佐藤ゆりあさんは自分から言わせると『天才・完璧』です。成績は常に学年トップ。1年の時は同じクラスでしたが、常にクラスの中心でした。まだ小学生にも見られてしまいそうな幼い容姿に(これは自分もですが)妙に色っぽさがあります(これは自分にはありません)。それでいて1年の体育会では短距離走で3年の陸上部員を破り優勝しました。ただし、近寄り難いのか、言い寄ってくる男子が少ないのが少し意外です。


中学生の修学旅行としてはありえないことに2人ともオムツ姿です。自分の理由は簡単で、オムツが必要だからです。この部屋は元々そんな自分のために「簡易保健室」として用意されていましたが、佐藤さんも怪我により(多少強引に感じましたが)今夜はオムツをつける事になりました。


消灯時間までまだ時間がありますが佐藤さんはなぜか照明をベット脇を除いて全て消しました。そして、ベッドに横になります。まぁ、自分も1人でこの部屋を使っていたら同じことをしたでしょう。要するに何もすることがないのです。私も空いているベッドに寝転びました。


「残念でしたね。せっかくの修学旅行最後の夜だったのに」


自分でもビックリするほど、言葉にトゲがありました。佐藤さんはためらいがちに、答えます。


「・・・私さ、今のクラスの子達と話が合わなくて・・・」

「それは佐藤さんに『お赤飯の日』が来たからでは?」


佐藤さんは天才です。IQが20以上離れているとコミニケーションが取れないとか言われていますが、そんな事はありません。例えば大人と子供の場合IQが20以上離れているのは普通ですが、話は通じます。しかしそれは一般的にIQの高い方の大人が子供に理解できるようにレベルを落としているのです。話を佐藤さんに戻すと1年の時は普通にコミニケーションが取れていたので、佐藤さんはそれを実践していたはずです。つまり、今の佐藤さん自身に問題があるのです。そして、自分達の年頃で何か変化があるとすれば、第二次性徴だろうと思います。今までにないホルモンバランスの変化で今まで出来ていたことができなくなったのでしょう。


「・・・なんで知っ、あ!」


佐藤さんは途中で理解が追いついたように納得の表情を見せます。


「『他人(ひと)に教える時は相手を小学校低学年だと思え』貴女の言葉です」


1年の時、佐藤さんは当たり前ですがクラスで1番、自分は女子で2番目だったので周りからテスト前などに質問されることが多かったのですが、自分には「なぜ、わからないかわからない」と思っていました。そんな時に佐藤さんから言われたのが先程の言葉です。


「だとしたら、それを何故、私に教えたの?マリちゃんにはそんな義務もメリットもないでしょう?」

「義理はありますよ。今、優しくしてもらってますから」

「優しくしてるかな?」


佐藤さんはニンマリと笑いました。


この部屋に入って来た時、自分(わたし)の状況を見てどうしてと聞こうとしました。その時は西田先生にさえぎられましたが、今は2人きりです。いくらでも聞ける状況なのです。それでも何も聞かずにほっといてくれる、これは『優しさ』でしょう。


「会話ができるっていいね。クラスの子とか爪が割れて流血してるの見て『血が出てる〜』だよ。『見りゃわかるだろ!』て言いたくなる。1、4、7、10で伝わるはずで1、2、3て順番に伝えるの非効率じゃない?」


あまりの佐藤さんらしさに、自分もクスクスと笑いながら続けました。


「自分もこの前、クラスの女子と揉めてしまって、『お互いに謝って仲直りしよう』て他の子が言って来て、わざわざ第三者が自分と揉めてる子を仲直りさせるメリットって何さ?て思ってしまって」


「わかるわ〜、って言うか、さっきから気になってたけど、丁寧語やめてよ。あと私の事は『ゆりあ』でいいよ。さっきから私も『マリちゃん』って呼んでるし。西田先生を見習って」


「じゃあ、ゆりあさん」

「ヤダ!ゆ・り・あ!」

「『マリちゃん』なんで、自分も西田先生を見習ってゆりあちゃんで」


ゆりあちゃんが納得したかのようにうなずく。少し間があって、自分も覚悟を決めました。


「ゆりあちゃん!」

「なに?」

「どうして、自分がこうなったか聞きたいですか?」

「聞きたい!」


即答でした。今の自分を鏡で見るとゆりあちゃんのようにニンマリと笑っているでしょう。それを自覚しつつも、止められないまま言ってしまいます。


「条件があります。せっかくオムツをつけているのだし、ゆりあちゃんもおもらししてください!」




どうしてこうなったか、自分でもわかりません。


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