高野舞(2)
驚愕から1番早く立ち直ったのは、やはりゆりあだった。
「それでは先生、あなたは先生なんでしょう?教えてくれない?『なぜおむつをつけてはいけないの?』」
その問いかけに舞は答えられない。それを知っていて、ゆりあは続けた。
「おむつを使う事は別に犯罪でも、迷惑行為でもないわ。しかし実際には使用している人は社会の隅に追いやられている。いや、『追いやられていた』ね。『ユリア・シンドローム』が少しは社会を変えたもの」
確かにと舞は思う。ドラッグストアにはティーン向けのおむつが並び、ショッピングモールにはおむつ交換のためのスペースが拡がった。どれも発症率10%と言われる「ユリアシンドローム」の起こした現象だった。
「我々は誰も傷つけていないし、傷つける予定もない」
その言葉を聞いた瞬間、舞の血は沸騰した。視界が赤くなった気さえする。
「ふざけんな!私の弟はな、お前たちに殺されたんだ!」
急な怒号にゆりあもマリも思わずたじろぐ。
「私と弟の『テンペスト』は入れ替わっていたの。一緒に生活していれば全く同じものが入れ替わっても気づけない。多分あなた達は私を『ユリア・シンドローム』にしようとしたんでしょう。それで弟は尿失禁を繰り返した。最後は絶望して命を絶ったわ」
沈黙がこの場を支配する。完全に舞の独壇場だった。
「さっきまで私は教育者として、どう夏樹さんを教えればいいだろう?育てよう?そんな事を考えてた。でも、お願い。夏樹さん。『テンペスト』を『ユリア・シンドローム』を止めて」
夏樹はその言葉を聞いて、首を振った。
横向きに。




