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オムツと私たち  作者: 062


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広井夏樹(6)

『スマートウォッチ・テンペスト』、一昨年の4月に小中学生に無料配布されたそれは、防犯ブザーや居場所の把握、体温情報や血圧など健康管理にも利用され、国民にも概ね良好な受け入れがなされた。その前から中高生にはアメリカのパイナップルウォッチを抜いてシェア1位を獲得。圧倒的なコストパフォーマンスの高さはそのまま人気も高かった。ただし、野党だけは「バラマキ」だと非難していたが。


千葉県某所。深夜。


「単刀直入に聞くわ。どのデータが盗まれたの?」


135cmぐらいの女の子に見えるが立派に20代の社会人、もっと言えば学校法人の理事長を務める小田マリは聞いた。


「全てだ。奴はこの下にある『スーパーセル』のデータを全て取られたと言っていい」

「どうやって?」

「停電や自然災害に備えてドバイにバックアップがあるのを知ってるだろ?俺らが必死に守っていたのはそっちだった!」


叫ぶように夫である小田圭吾は言った。


「こっちで火災や災害が起こった場合、自動的にドバイのバックアップが稼働して、表面上、何も問題が起こってないようにしてる。それが仇となった。必死でオリジナルを守ってるつもりだったが、それがドバイのバックアップで、下のはすでに相手にいいように情報抜き放題だったワケだ。やってることはフィッシング詐欺に近いな。けれど全て本物だからタチが悪い」

「ねぇ、本当に小5がやってるの?」

「ユリアちゃんが言ってたよ『わたしの再来』だって」


その言葉にマリは妙な納得を覚えた。



同じ頃


(インターフェースはこんなもんか、後は機能を紐づけてっと、できた!)


「まだやってたの?夏樹!もう寝なさい!」


「はーい」と布団に潜り込む。


翌朝、おむつを交換してもらって家を出る。今日は養護の先生が出張だからパンツタイプのおむつだった。


(25%か、朝起きるのが遅かったし、しょうがないよね)


スマホのアプリを見る。


(4時間目か5時間目かな?)


とあたりをつけながら登校。由香への通知はオフにしたから、嫌がらせメールもなくて快適だ。


100%を越えたのは5時間目だった。即座にアプリ上のボタンをタップする。数秒で効果が現れた。


「今度は由香ちゃんがおもらしした!」


1年のまさき君が叫ぶように言った。椅子の下にできたおしっこの水たまりがそれを物語っている。


「夏樹ちゃん悪いけど、保健室まで一緒に行ってあげて」


担任の舞先生が言う。夏樹は平静を装って、保健室まで連れて行く。「出張中。気分の悪い子は職員室まで」とプレートがかかっているが鍵はおむつ交換のために持っているので問題ない。


「どう?おもらしした気分は?」


あくまでも無表情に、そう夏樹は自分に言い聞かせる。


「自分が一番わかってるでしょ?」

「どうする?今日は体育なかったし、着替えはないよ?私の以外は」

「貸してくれるの?」

「うん」


つい笑ってしまう。


「はい。これよ」


「ふざけてるの!こんなのつけられるわけないじゃない」


「まだわかってないんだね?じゃあ、どうするの?」


夏樹は保健室内を探し回り、ついに見つけた。


「これを着ればいいでしょ?」


ここまで計算通り。


「またしちゃっても知らないからね?」


そう言って夏樹は教室へと戻って行く。スマホを見た。まだ50%残っている。


残り5分。スマホのボタンをタップ。


途端にクスクスと下級生の笑い声がした。


「誰か教えてあげてよ」

「お前が言えよ、同じ女の子だろ?」


先程の再現のようにできる水たまり。夏樹が手を挙げて、言う。


「先生!また、由香ちゃんがおもらししてます」


そう伝えて、夏樹はまた保健室へと由香を連れて行く。本当に信じられないのか心ここにあらずといった感じに見える由香。優しく、夏樹が話しかける。


「さて、そこに横になって」


そしてスマホを操作する。


「これで手足に力が入らなくなったね?どう?5時間目で2回もおもらしした気分は?」


「なんで?どうして?」


RPGゲームのように混乱している由香。夏樹は意思疎通は可能だと判断して続ける。


「結論から言うと、由香ちゃんにおもらしさせたのは私」


目を見開いて、怒りをあらわにする由香。


「どうして!どうやって?」


叫ぶように言う。それでも起き上がる事はできないようだ。


「イーロン・マスクって知ってるかな?世界一の億万長者の。彼が出資してる事業に筋ジストロフィーって言う病気のために500円玉ぐらいの機械でヒトの手足を動かすって開発がされているのだけど、小中学生がみんなつけてるスマートウォッチ『テンペスト』にも同じ様な機能がついてるの。それは最初からついてるんだけど、由香ちゃんの『テンペスト』の制御を私が乗っ取ったの。ハッキングで」


由香は何を言っているか理解できたかはわからない。でも目の前にいる、夏樹が自分をこうした事だけはわかった。だから、先程よりは落ち着いたトーンで聞いた。


「質問の半分しか答えていないよ。どうしてよ?」


「動機だね。1つは不正にログインして、私を追い詰めたから。もう1つは実験の為だよ。機能があるのは設計図でわかるけど、本当に使えるかわからない。だから試す必要があった。その時、自分を除くこの小学校の生徒から誰を選ぶ?1番キライな子にしない?」


由香はもう何も言えなかった。


「ああそれと、脅しはかけておくよ?私にこれ以上何かしたら次は大きい方だからね?」


夏樹はしっかりと念入りに由香の心を折った。


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