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オムツと私たち  作者: 062


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広井夏樹(4)

目を覚ますと、体が湿っている気がした。


「……え?」


一瞬、何が起きたのかわからなかった。

でも、すぐに理解した。私、おねしょしたんだ。


信じられなくて、おむつに手を当てる。膨らんでいて、触れるとまだほんのり暖かかった。おむつが吸収してくれたみたいで、布団に被害はない。でも、それが逆にショックだった。まるで赤ちゃんみたい。昨日まで、こんなこと一度もなかったのに。

気づけば、スマートウォッチが震えていた。


「ついにおねしょまで? 大丈夫?」


「……っ!」


心臓が凍りついた。どうして由香ちゃんが知ってるの? まるで全部見られているみたいで、背筋がぞわっとする。


「なんで知ってるの……?」


思わず小さく呟く。もしかして、誰かに言いふらされるんじゃ……? そんな不安と同時に、イライラした気持ちが湧き上がる。


(バカにしてる……?)


ただ心配してるだけかもしれない。でも、「ついにおねしょまで?」なんて言葉、からかい半分にしか聞こえない。朝からこんなメッセージ、送ってくる意味がわからない。

朝食の時間、ママが「今日は気をつけてね」と優しく声をかけてくれた。でも、その言葉が胸に突き刺さる。何に気をつければいいの? また失敗しないように? それとも……。

学校に着いて、授業が始まった。頭がぼんやりして、先生の声もあまり入ってこない。

2時間目が終わった瞬間、急いでトイレへ向かった。もう失敗したくない。絶対に間に合う——そう思ったのに。

ドアを開けた瞬間、体の力が抜けるような感覚があった。


「え……」


一歩も動けないまま、股の間がじんわりと暖かくなる。止めなきゃ、と思っても、体は言うことを聞かなかった。気づけば、おむつの中に全部出し切っていた。

トイレに入ったのに、間に合わなかった。情けなくて、どうしようもなくなって、奥歯を噛みしめる。何してるんだろう、私。

その時、スマートウォッチが震えた。


「あーあ、また?」


カッとなった。


(……また? 何それ、何が「あーあ」なの?)


由香ちゃんがどんな顔でこれを打ったのか、簡単に想像できた。ニヤニヤしながら、面白がってる顔。


(私が失敗するの、そんなに楽しい?)


唇を噛んで、スマートウォッチの画面を閉じる。でも、胸の奥でモヤモヤした気持ちがくすぶり続けていた。その後、私は誰もいない保健室にいた。教室になんて戻れない。

おむつを交換しながら、ふと外から声が聞こえた。


「トイレ行ってくる!」


低学年の子たちの声。


(普通にトイレに行けるのに……)


それが、どうしようもなく悔しかった。私は今、おむつを交換してるのに。



夕方、家に帰ると、玄関の鍵を開けた音に混じって、ママの声が聞こえた。電話をしているみたい。


「最近、温泉のお客さんが減っているんですって。どうにかしないと……」


思わず足を止めた。ママの働いている温泉、そんな状況になってたんだ。知らなかった。


(……どうにか、できないかな)


考えながら、自分の部屋へ向かう。すぐにパソコンを開き、検索を始めた。何を調べればいいのかわからなかったけど、気づけば指が勝手に動いていた。

画面に表示される情報。アクセスできるデータ。どれも頭の中にスッと入ってくる。

やれる気がした。何かできるはず。

無心で作業を続けるうちに、時間の感覚がなくなっていた。

ふと違和感を覚えて、体を動かした瞬間、股のあたりがずっしりと重たいのに気づく。


「……また?」


おむつがパンパンになっていた。作業に集中しすぎて、気づかなかった。でも、驚きよりも先に、またキーボードを叩く。

今は、この手を止めるわけにはいかなかった



同じ時刻


「おかえりなさい。今日は、早かったね。」

「うるさいわ!もう9時、君の親愛なる生徒諸君は寝る時間だわ!」


「あはは」と笑いながら舞は宏を出迎え、上着をハンガーにかけてあげる。なおも笑ったまま、宏に言った。


「その親愛なる生徒諸君がしそうなミスだよね。単位を間違えるって。4年の由香ちゃんとか苦手だもんね。kmとmとか。」


「・・・先月までとフォーマットは変わってないからな。」


宏は絞り出すように言い訳した。


「ホント、いいようにやられたわね。親愛なる生徒に」


「ん?どういう事だ?」


「知らないのも無理ないわね。昨日の昼間、検査機関からメールが来たでしょ?」


「ああ、それで間違えに気がついた。」


「そのメールを送ったのがウチの生徒なのよ。わざわざ検査機関のサーバーに侵入して、検査結果を送ってないデータを抜き取り、メールを添付してなりすまして送った。」


「舞の勤務先って小学校だろ?ありえないよ!」


怒ったように宏は叫んだ。怒ったわけではなく、感情が昂ると宏はこうなると舞は知っていた。


「だってそのメール。私の目の前で送ってたもの」


「ウソだろ?それなら検査結果の数値も?」


「数値は変えてないわ。gとmgの標記を変えた以外は。だから言ったでしょ『いいようにやられた』って。見透かされてるのよ。貴方達がこうすればミスするって」


宏の顔が段々と怪談でも聞くように恐怖を覚えたのが舞にはわかった。


「その生徒って、まさか。」


「ええ。ユリアシンドロームよ。」

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