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オムツと私たち  作者: 062
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佐藤ゆりあ(4)

「娘が大変お世話になりました!」


そう言いながらママが保健室に入って来た。対して、養護教諭の西田先生は準備万端だった。


「佐藤さんのお母様、少しお話しよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

「まずは私からのお願いです。叱らないであげてください。私が赴任して3年目になりますが、女子だけで一昨年は10人、昨年は12人が同じような失敗をしています。1学年大体80名だと2割弱の割合で起こる事です」

「そんなにですか?」


薬剤師でもあるママに実数のデータで勝負する西田先生。更に数字を重ねる。


「全国的に見ても、病院にかかってる子だけで5%、つまり日常的にオムツを必要とする子がクラスに1人はいる計算です。もっと言えばこれは病院に行っている子だけなので、潜在的ににはもっといるかもしれませんね」


ママがデータ制限のスマホの様に止まった。いつか見た、真剣な目で先生は続ける。


「だからよくある事なんです。叱らないであげてください。ゆりあちゃんに話を聞けば、昨日相談しようかと思ったけれど、恥ずかしくて出来なかったと聞いています」


ママがそれを聞いてハッとした様に私を見た。多分思い当たる節があるのだろう。それでも言いたい事は言う。これがママのポリシーだった。


「元から怒る気などありませんよ。ただ、娘が心配で・・・何か変な病気ではないかと・・・」


ママの言葉に顔が熱を帯びる。居た堪れず2人から視線を逸らすように俯く。


「佐藤さんの心配はごもっともです。それなら、明日は終業式だけですし、表向きには風邪という事にして病院へ行くというのは?尿検査をしてもらうだけでも、お母様が心配されているであろう、膀胱炎や糖尿病等の病気を否定出来るのでは?」


「そうですね。万が一、病気なら早い方が治療に様々な方法が取れますしね」

「検査で何もなかった場合、心因性過活動膀胱でしょうから・・・」

「その場合原因が・・・」

「多分、対処療法しかないかと・・・」


途中から2人とも言い難い感じになった。ここは私の出番なのだろう。要は受験がストレスとなって、トイレが近くなっているのなら、受験しないかこのままかという事だ。


「つまり、オムツをするしかないという事でしょうか?」


2人ともに相手が回答するのを待っている。その状況を利用して、私は話を進める。


「それなら私は構いません。それよりもテストや授業にトイレの事ばかり気にして集中できない方が困ります。この前の模擬試験の時もテスト時間途中で頭が一杯になってしまって・・・」


それを聞いた2人が少しホッとした様に話をまとめる。


「では明日病院に連れて行く事にします」

「わかりました。これ、私の個人の携帯番号です。3学期の事もあるので、ご相談いただければと思います。そのゆりあちゃんの担任は男性ですし・・・」


「助かります」と言って早速携帯に登録を始めるママ。西田先生がその間に何かを取り出してママの前に置いた。化粧品メーカーの紙袋だった。


「その、いわゆる『お土産』です」

「お気遣いありがとうございます」


これだけ聞くと普通にお土産を渡すやりとりだろう、でも中に入っているのは汚れた私の下着と靴下である。


「それから、ゆりあさんにはパンツタイプのオムツをつけてもらってます。その大変、心苦しいのですけど、今日は他にも急に生理が始まった子がいて、合うサイズの下着がなかったもので」

「中学校の保健室にオムツがあるのですか?」


素朴な疑問の様にママが質問した。私も少し気になっていた。


「先程も言いましたが、よくある事なんです。3学年あれば月1回以上のペースで。それに最近は誰が使ったかわからない下着より、オムツの方が衛生的だと言う子もいるんですよ」


ママは驚いたようだけど、私はオムツを日常的に使う人を知っている。



翌日、私は泌尿器科で検査を受け、心因性過活動膀胱の診断を下された。


こうして私のオムツ生活は始まった。


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