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オムツと私たち  作者: 062


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山中サクラ(5)

ユリアシンドロームという言葉は、今や広く知られるようになった。Wikipediaには


ユリアシンドローム

ユリアシンドローム(英: Yulia Syndrome)は、進行性疾患である。主な特徴として、排尿機能の段階的な低下と、それに反比例する形での集中力、認知能力、運動能力の異常な向上が挙げられる。この疾患は、芸術、スポーツ、学問など、多岐にわたる分野で患者に顕著な才能開花をもたらす一方で、深刻な生理的制約を伴う。

概要

ユリアシンドロームは、稀な遺伝子変異に起因するとされるが、具体的な原因遺伝子は特定されていない。発症率は世界で約5%とされているが、日本などの先進国では10%に達することもある。基本的に思春期以降の10代で発症するが、発見から10年ほど経過し、症状が不可逆的であるため、20代の患者も存在する。症状の進行は個人差が大きいが、一般的には以下の段階を経て進行する。

1. 初期段階: 排尿頻度の減少、軽度の集中力向上

2. 中期段階: 排尿機能の著しい低下、高度な集中力、認知能力の向上

3. 末期段階: ほぼ完全な排尿機能の喪失、超人的な集中力、運動能力、芸術的才能の開花


などと掲載されている。


サクラの名前もその一部として、街のどこかで耳にすることが増えた。学校では、どこか遠巻きに見られるようになり、同級生たちは彼女を特別視するようになった。周囲の期待は日に日に高まり、サクラもその目に応えようと必死に努力をしていた。


サクラの中では、母親が望んでいた未来が少しずつ形になっていくのが感じられた。ユリアシンドロームに関するあらゆる情報を収集し、周囲にその症状を疑わせるような行動をとってみたり、特別な力を持つかのように振る舞うことも覚えていた。最初はぎこちなかったが、次第に自然にその役を演じることができるようになった。


母親もまた、その道のりを支えてくれた。彼女の目はどこか誇らしげで、サクラが「ユリアシンドローム」の証拠を見せる度に、嬉しそうに微笑んでいた。親子はその期待に応えるために、密かに努力を重ねていた。


だが、そんなある日、サクラはふと気づいた。自分がどれほど努力しても、何も変わらない現実があることに。どんなに特別な存在になっても、その代償は重い。母親の期待に応えなければならないというプレッシャーは、次第にサクラの心を押し潰すようになった。


そして、その日はやってきた。

放課後、サクラは気づかなかった。朝、学校に出かける前におむつを替えるのを忘れていたのだ。すっかりそのことを忘れていたサクラは、授業中にふとした瞬間、自分のおむつが湿っていることに気づいた。最初はそれが何なのか分からず、しばらく席に座っていたが、次第にそれが明確になってきた。


「やばい…」


心の中で呟きながらも、サクラはあくまで冷静を保とうとした。しかし、数秒後、思わず笑いたくなるような展開が待っていた。

教室の中、突然の違和感に気づいたのは、隣の席に座っているクラスメートだった。彼女が目を大きく見開き、驚いた声を上げる。


「え、サクラ…おもらし?」


その一言が、教室中に響き渡った。その瞬間、サクラは恥ずかしさに顔を真っ赤にし、言葉を失った。だが、最も驚くべきことは、クラスメートたちがみんな何かしらの反応を示したことだった。誰もが、まるで予期していたかのように反応し、笑いをこらえるように顔を隠した。

サクラはそれを受け入れるしかなかった。ユリアシンドロームがどうであれ、最終的に彼女は母親の望む特別な存在になった。そして、その結果として、教室の中でおもらしをしても、それすらも「特別」なものとして受け止められたのだ。

帰宅後、サクラは母親にその出来事を話した。すると、母親は少し驚いたような顔をし、でもやがてにっこりと微笑んで言った。


「まあ、それも一つの証拠ね。ユリアシンドロームだもの。これでますます特別な存在になったんじゃない?」


サクラは、心の中で複雑な感情を抱えながらも、母親に微笑み返した。そんなやり取りが、これからも続いていくのだろうかと思うと、少しだけ疲れたような気がした。

しかし、ユリアシンドロームという道を歩んでいく中で、サクラは次第にそれを自分の一部として受け入れていくことに決めた。それが良いことであれ、悪いことであれ、母親の期待に応え続けることは、これからも変わらないのだろう。


そして、教室で起きた出来事も、いつか笑い話になる日が来るのだろうか。


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