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オムツと私たち  作者: 062
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佐藤ゆりあ(3)

「痛った!」

「ごめん!佐藤さん!大丈夫?」


そう言われて私はドアに挟まれた親指を見る。大丈夫ではなさそうだ。命に別状はないだろうけど。


「血が出てるじゃない」


出てるし爪も割れている。でも耐えられない程痛い訳でもない。むしろそんなに騒がないでほしい。私は目の前で騒ぐ彼女が苦手だ。そんな彼女、前川さんから逃れるように言った。


「絆創膏を貰ってくるわ」


絶賛、中学最大のイベント中である。つまりは修学旅行である。


ただ、私は正直言って楽しめていなかった。昨年4月のクラス分けの時点で予想はしていたけど。

そのままどこのグループにも属さずにいたら、悪い人ではないけれど空気の読めない前川さんと、4人組グループで1人余った(1部屋3人なので)村田さんと同じ部屋になった。


先生に怪我した指を見せたら、難なく4階の401号室に行くように言われた。養護教諭がいて、即席の保健室になっているらしい。


ちなみにホテルの男子が3階、女子が5階、先生たちが4階を使っている。使っている人数が少ないせいか、階段を降りた4階の廊下はひどく静かだった。そのせいで中の会話が筒抜けで聞こえた。


「じゃあ、ここにゴロンってしてね」

「そんな、幼児みたいな言い方・・・」

「失礼します。西田先生いますか?」


いきなり入って来た私に、部屋の空気が一瞬凍る。しかし、養護教諭の西田先生はすぐに私をとがめるように口を開く。


「2組の佐藤さんよね?どうかしたの?」


スっと怪我をした場所を見せる私。それを見てさすがに責めるような空気感をなくす西田先生。まだ20代とはいえ、中学2年の私たちの中だと年長者だけある。


「ちょっと待ってね。先にひと仕事済ませてしまうね」


そう言って、布団の上に寝た少女にオムツをつけていく。なんとなく、この部屋の存在意義がわかった気がする。西田先生は手早く済ませると「治療道具を持って来るね」と言って部屋を出て行ってしまう。


当然、部屋には私と彼女が残される。水田(みずた)マリである。彼女とは1年の時に同じクラスだったので知っている。


「偶然とはいえ、ごめんね」


絶対にありえない事だけど、学校内で人気投票みたいなものがあれば、水田さんがトップだろう。成績も上位だし、運動も出来る。男女問わずに人気のある、そんな彼女が私を見ている。


「しょうがない事でしょう。それにこんな事になっているのは私のせいだし」


「水田さん、あのねー」

「お待たせ!佐藤さんまずは消毒しておこうか」


会話の流れをぶった切り、西田先生が治療を始めた。


「佐藤さん、親指、折れてるかも」


「「え!」」


何故か水田さんまで驚きの声をあげた。


「それで、こっちの布団の上で仰向けに寝転んでもらえないかな?あと、マリちゃん手伝ってくれる?」


素直に横になった私の上に水田さんが馬乗りで私を見ている。それからはあっという間に私はジャージの下とショーツを脱がされオムツをつけられた。


「可哀想だと思うけど、今夜はトイレ禁止ね。右手の親指の爪が割れているからトイレットペーパーを使う時に染みて傷口に細菌が入ってしまうかもしれないし、骨に異常があるかもしれない状態で無闇に動かさない方がいいから」


西田先生のこじつけに近い言い分に少しモヤッとする。


「ああ、それとコレ鎮痛剤。本当に折れてたら痛み出すだろうから飲んでおいて」


出された薬を出そうとしていた反論と一緒に飲み込む。


「ごめんなさいね。佐藤さん、いえ、ゆりあちゃん」


わざわざ私を下の名前に言い直して、西田先生は続ける。その表情に私は真面目に何かを伝えるつもりだと感じた。


「不公平に聞こえるかもしれないけれどね、先生はマリちゃんの味方です。もう、ゆりあちゃんなら気づいていると思うけどね、マリちゃんは寝る時にオムツが必要です。ゆりあちゃん、あなたがそういう体質だったらこの修学旅行に参加したかしら?」


何も言えず、私は首を横に振る。


「そうよね。先生だってどうするかわからないね。だから先生ぐらい、味方でいてもいいと思うのね」


そう言って西田先生はニッコリと笑った。もう先程の雰囲気はどこにもなく、今にも冗談を言い出しそうな感じだった。


「ゆりあちゃんもその格好だと自分の部屋には戻れないでしょうから、この部屋で今晩は寝なさい。連絡は先生の方でしておくから」


こうして私の修学旅行の最後の夜が始まった。



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