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オムツと私たち  作者: 062


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橋本風乃(4)

リビングのソファに腰掛け、風乃は何気なくテレビを眺めていた。特に面白いわけでもないバラエティ番組をぼんやりと見つめながら、どこか落ち着かない気持ちを抱えていた。

それを察したのか、姉の花乃が背後からそっと近づいてきた。


「ねえ、風乃……最近、夜のおねしょ増えてない?」


唐突な問いに、風乃はビクッと肩を震わせる。しかし、すぐに表情を取り繕い、テレビに目を向けたまま肩をすくめる。


「大丈夫だよ。お姉ちゃんみたいに毎晩おねしょしてるわけじゃないし。」


自分でも少し冷たい言い方だとは思ったが、気にしないふりをした。

花乃は困ったように視線を落としながら、それでも優しい口調で続ける。


「でも、最近はしない日の方が少ないよね……何か気になることがあったら、言ってほしいな。」


風乃は一瞬、心臓が跳ねるのを感じた。図星だった。確かに最近は、おねしょしない日の方が珍しくなっている。だけど、それを認めるのは嫌だった。お姉ちゃんみたいに「当たり前」になるのは、もっと嫌だった。


「気にしすぎだよ、花乃。」


風乃はわざと軽く笑って、姉をからかうように続ける。


「私、お姉ちゃんみたいに毎晩じゃないもん。それに、昼間はちゃんとトイレ行けるし、心配いらないって。」


その言葉に、花乃の眉が少しだけ曇った。


「……うん、そうだね。でも、もし何かあったら、ちゃんと言ってね。」


優しい声だった。でも、風乃はその優しさが少し鬱陶しく思えてしまう。


「お姉ちゃんこそ、自分の心配したら?朝も昼間もオムツなんだから。」


つい、そんな言葉を投げてしまう。

花乃はしばらく沈黙した後、静かに「うん」とだけ答えて、リビングを後にした。


その夜、風乃はスマートウォッチのアラームで目を覚ました。


「ん……?」


ぼんやりとした意識の中で、腕を持ち上げる。時間は深夜2時。最近、夜中に目を覚ますように設定していたのだ。


「トイレ……行かなきゃ……」


そう思ったものの、体は思うように動かない。眠気が勝ってしまい、目を閉じる。


――大丈夫、まだ間に合う……。


そう思ったのも束の間。

じわ……


「っ!」


突然の感覚に、風乃は飛び起きた。しかし、時すでに遅し。下半身に広がる湿った感触が、全てを物語っていた。


「嘘……また……?」


風乃は恐る恐る布団をめくる。暗闇の中でもわかる。オムツはすでにぐっしょり濡れていて、さらに染み出したのか、布団まで少し湿っていた。


「……また、おねしょ……?」


ガクリと肩を落とし、頭を抱えた。最近、おねしょの回数が増えている。最初はたまにだったのに、今ではほぼ毎晩になりつつあった。


「お姉ちゃんみたいになっちゃう……?」


その考えが頭をよぎると、無性に怖くなった。あんな風に、ずっとオムツを使い続けるなんて、絶対に嫌だった。


翌朝、風乃は気持ちを切り替えるように、普段通りに振る舞った。夜のことは忘れる。考えなければ、何もなかったことになる。

そう自分に言い聞かせながら、リビングでテレビをつける。


しかし――。

その午後、風乃は思いもよらない事態に直面することになる。

ソファに座り、ぼんやりとテレビを見ていたその時、不意にお尻に違和感を覚えた。


「……?」


何かが、おかしい。

いやな予感がして、そっと腰を浮かせた瞬間――。


ひやり、とした感触が広がった。


「えっ……?」


視線を落とすと、ソファのクッションに小さな染みができているのが見えた。


「うそ……」


心臓が跳ねる。どういうこと?昼間なのに?オムツしてないのに?


「まさか……おもらし?」


そんなはずない。でも、状況がそれを否定できない。風乃は愕然とし、じわりと目に涙が滲んだ。


「どうしよう……」


パニックになりかけたその時。


「風乃?」


不意に、リビングのドアが開いた。


「っ!!」


姉の花乃が立っていた。

風乃は咄嗟にソファを隠そうとする。しかし、花乃の視線がすぐに染みに気づいた。


「……もしかして、おもらし……したの?」


その言葉に、風乃の顔が一気に赤くなった。


「ち、違う!!」


咄嗟に叫ぶ。でも、震えた声は説得力に欠けていた。

花乃はしばらく風乃を見つめ、それから小さく微笑んだ。


「大丈夫だよ、風乃。私も昔、そうだったから。」


優しくて、温かい声だった。

でも、その優しさが今は何よりも悔しかった。


「……っ!!」


風乃は何も言えず、ソファから立ち上がると、逃げるように部屋を飛び出した。


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