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オムツと私たち  作者: 062


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橋本風乃(2)

お姉ちゃんを見て笑っていた時代が風乃(かざの)にもありました。


朝、目が覚めると、なんか布団が湿ってる。変な汗でもかいたのかと思って寝間着を触った瞬間、ゾワッと嫌な感触が広がった。


「……は?」


一気に目が覚めた。急いで布団を跳ね上げると、そこにははっきりと広がる濡れた染み。


「嘘……」


寝間着も、下着も、ぐっしょり。頭が真っ白になる。何これ、何で、どうして? こんなの最後にやったの、たぶん4歳とかその辺のはず。


「10年ぶり……?」


信じられない。こんなの、ありえない。ありえないはずなのに。


(と、とりあえず証拠隠滅……!)


風乃は濡れた寝間着を脱いで、こっそり洗濯機に放り込む。布団はどうしよう。とりあえずシーツを剥がして、ベッドの上に押し込んでおくしかない。とにかくバレたら終わる。絶対にバレたくない。

でも、焦っていたせいで気づかなかった。

リビングから聞こえていた足音が、風乃の部屋の前で止まることに。


「風ちゃん、起きた?」

「っ!」


ママだ。


「う、うん! 起きたけど、ちょっと待って!」

「風ちゃん?」


ドアが開く。ママが入ってくる。そして、ベッドのシーツがないことにすぐ気づいた。風乃は冷や汗をかく。


「風ちゃん、もしかして……おねしょ?」


心臓が跳ね上がる。風乃は必死に取り繕う。


「ち、違う! ただ、なんか暑くて……汗かいて……」

「シーツの染み、見えてるわよ?」

「……っ」


逃げられない。誤魔化せない。風乃は歯を食いしばる。悔しい。情けない。


「……ごめん、ママ……」


ママは少しため息をついた。でも、怒るわけじゃなくて、ただ優しい声で言う。


「誰にも言わないから。月ちゃんや花ちゃんには内緒にしておくわ」


その言葉に、風乃はほんの少しだけホッとする。でも、まだ完全に安心はできない。


(お姉ちゃんにだけは、絶対バレたくない……)


そう思っていたのに。

リビングから脱衣所に向かう途中、風乃は運悪く鉢合わせてしまう。


「風乃、なんか寝間着濡れてない? まさか……おねしょ?」


その瞬間、風乃の中で何かが弾けた。


「は!? 何言ってんの!? してないし!!」

「……でも、濡れてるよ?」

「だから、違うって言ってんじゃん!! 余計なこと言うな!!」


お姉ちゃんは困ったように眉を下げる。そして、ぽつりと言った。


「……風乃、無理しなくてもいいんだよ。私だっておねしょしてるし……」


その言葉に、風乃は一気に顔が熱くなる。


(なに、それ……!)


「は? 関係ないでしょ!? お姉ちゃんだっておねしょしてるくせに!!」


声が震えていた。怒りなのか、恥ずかしさなのか、自分でも分からない。


「……そんなに怒らなくてもいいじゃん。気にすることないんだよ」


優しく言われると、余計にムカつく。風乃は何も言わず、ぷいっと背を向けて脱衣所を飛び出した。


(絶対に、認めない……!)


でも、心臓のドクドクはなかなか収まらなかった。


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