閑話 うちの娘は異常すぎる
一切、皆様の期待するものはありません。
43億3000万。出てきた数字に慄く。
アメリカ、ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン島南部、俗にウォール街と言われるエリアに私のオフィスはある。言わずと知れた金融の中心地で私は自分の娘の管理している口座を盗み見る。出て来た数字が冒頭のそれである。
2年前、親が死んだ。持病もあったし覚悟はできていた。むしろ2ヶ月後に迫っていた本店勤務に影響がないかと焦ってさえいた。私もだが、娘が遺産の一部を相続した。金額にして2000万程。相続税の節税としてはポピュラーなやり方だろう。
それを原資にFXで、株式や暗号通貨で増やしまくったのが我が娘である。しかも表向きにはタックスヘイブンのヘッジファンドに投資した事にして、自分に税金がかからないようにする念の入れようだ。先程、私は「娘が管理している口座」という表現をしたのはこのためだ、「娘の口座」ではないからな。もっといえば判明している口座はこれだけで他にもあるのかもしれない。
その鍵を握ると言っていいのがパナマからのリーク文書である。日本人だとECサイトの社長だとかコーヒー会社の創業者の名前があったあの文書にウチの娘の名前もあった。1ヶ月程それを精査し、娘の総資産を推定ではあるが割り出せた。
150億円。
最早、笑うしかない。が、親バカかもしれないが『娘なら出来るかも』と思えるのも事実だ。十年前まで私は地方銀行のイチ支店の資産運用担当だった。「パパ、アメリカで土地バブルが弾けるよ」と娘に言われて早目にサブプライムから手を引いた結果、損失を最小限に留めて本店勤務になった。その後も「中国」とか「ITプラットフォーマー」とか娘のお告げにも似た忠告に素直に従っていたら、ヘッドハンティングされてウォール街でファンドマネージャーをやっている。
最初の忠告から今年で10年になる。当時娘は5歳だった。
天才はいる、悔しいが。
どこかで聴いたキャッチコピーだ。
正しいが「ただし」と付けたくなる。
天才はいる、悔しいが。
※ただし、利益を得るには本人か周囲の努力・働きが必要となります。
こうだろう。




