橋本花乃(2)
わたしの家にはルールがある。わたしが小さい時からだ。それは『おねしょをしたら1週間はおむつで寝る』という事である。今日は2月17日なので、あと5日でわたしのおむつはとれるだろう。
「お姉ちゃん、今日はおねしょしないといいね!」
クスクスと笑いながらわたしに言ってくるのは妹の風乃だ。
「しないわよ。21日にキッチリパンツで寝るんだから!」
「お姉ちゃん、そういうの『フラグ』って言うんだよ?」
「わたしはおねーちゃんにおねしょしてほしいけどな!わたしだけおむつなのイヤだもん!」
真っ直ぐに悪意のない希望(わたしにとっては絶望)をぶつけてくるのは1番下の妹、月乃。現在、年少のトイレトレーニング真っ盛りのお年頃である。
翌朝
この前とは違う違和感で目が覚めた。ごく一部分に濡れた感覚がある。現実を受け止めるとかなり凹む。最悪な気分で1階のリビングの扉を開ける。
「おはよう、花ちゃん。その顔は失敗しちゃったのね。シャワーを浴びていらっしゃい。オムツはいつもどおり脱衣場のゴミ箱ね。それからカレンダーにバツ印を入れておいてね」
わたしの顔を見ただけで全てを察したママがそう言った。脱衣場に行くと洗面台の横にカレンダーがかけられている。15日から斜線が引かれて、2つに区切られている。どうやら上がわたしらしい。下は昨日バツ印がついている。
『どうか月乃が1週間以内に失敗しますように』と願う。
4歳児と競争している事実に赤面する。
それを流すようにわたしはお風呂場に逃げ込んだ。




