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オムツと私たち  作者: 062
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佐藤ゆりあ(1)

『恥ずかしいと思うけれど、今夜はこれを使って寝てね。ママより』


そう書いたメモと一緒にお試しパックと書かれた幼児用のオムツがベッドに置かれていた。それを見た少女はニンマリといった感じで笑った。


「何もかも計算通りね!」


少女の名前は佐藤ゆりあ、中学3年生である。ゆりあの計画について語るにはカレンダーを3日ほど遡る必要がある。



(3日前)


「まだ起きていたの?」


ゆりあの母である優子(ゆうこ)が声をかけたのは深夜1時過ぎだった。娘の部屋の照明がついたままだったからだ。てっきり、消し忘れて寝ていると思っていたが、机に向かってゆりあは問題を解いていた。


「この間の模擬テスト、ギリギリB判定だったんだもの」


確かに今日見たゆりあの結果は成績を落としていた。だがまだ1ヶ月以上あると思っていた優子と違って、ゆりあには焦りを産む結果となったようだ。


「夏まで部活をやっていた人達がここまで追いついて来るなんて・・・」


つぶやくように言いながら、問題を解く娘の背中に「あまり今から無理はしないようにね」と投げかけ、優子は自分の部屋へと向かった。


(翌朝)


『ママごめん、私の部屋に来てくれない?』


娘からのメールであった。忙しいのに何よと思いながら、ゆりあの部屋のドアを開けた。広がっていたのは懐かしい光景だった。布団に広がる世界地図と涙目の娘である。


「ごめんなさい」


優子の顔を見るなり言ったゆりあの顔は十数年前のままだった。懐かしいわねとしみじみ思いながらだと怒る気にもなれず、あの頃のような困った顔で笑顔という器用な表情で


「服を脱いでシャワーを浴びてらっしゃい。カゼをひくわよ、ここは片付けておくから」


優子はゆりあが汚した衣類をまとめて、天気が良くて良かったと思った。そうだ、洗濯するなら、仕事場に連絡しないと!と慌ただしく動き出した。





「受験ノイローゼ?ゆりあちゃんが?」


そう声をあげたのは、優子の上司である君枝(キミエ)である。あれから2日、ゆりあのおねしょは続いていた。


「もう3日も連続でおねしょしてるんです。小学校に入る前にはなくなってたのに・・・」


デリケートな問題だが、誰かに相談したかった優子は君枝に昼休みに打ち明けた。君枝は4つ程優子より年上でお姉さんみたいな頼り甲斐があった。子供も2人とも成人しており、母親業の先輩でもあった。


「とりあえず対処療法として、オムツでも用意すれば?最近は中学生でも入るサイズのを売ってるよ?あっ!そうだわ!」


そう言って君枝は休憩スペースの隅の段ボールから何かを取り出した。


「試供品で貰ったものだけど、これならゆりあちゃんでも大丈夫じゃないかしら?使うかどうかは本人次第だろうけど」


その日の夕方


『恥ずかしいと思うけれど、今夜はこれを使って寝てね。ママより』


優子はメモを添えてゆりあの部屋に貰ったオムツを置いた。使わなくても構わない。何年か後に笑い話になればいいと願いながら。

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